主人公

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Side リベリ 「ああ!? なんだよお前!!」 「何をしているだって!? お前なんか関係あんのかよ!?」  目の前の立派な鎧を着た男が威嚇をしてきた。  威勢の良さ、それなりに腕に自信があるのだろうと予測ができる。  だが、どう見てもてんで弱そうだ。 「関係はないさ、ただ明らかに暴漢が女性を襲ってるんだ。みすみす見逃す訳ないだろう?」  例えどんな種族だろうが、傷ついてる女性を見逃すわけが無い。  それに、昔からこういうのはよくいたもんだ。複数で弱い者をいじめる奴が。    内側から溢れそうな殺気を抑え、相手の出方を見る。 「ははは、こいつちょっと調子乗ってんな? 痛い目合わせてやるかぁ」 「いいぜいいぜやっちまおうぜ! 「ギャハハ」  騎士達はまるで新しい遊び道具でも手にしたかの様に楽しそうだ。  自分達に逆らう奴はどんな奴でも許すつもりはない。  そして、懐に収めていた剣を構える。  何たって相手は丸腰そのものだ。  そんな奴相手に剣を出すなど、同じ剣を握りし者として恥を覚えざるを得ない。 「は! やる気かよ。まあいいか」  一応、体の状態も確認しておきたい。万全じゃないにせよ、力量は把握しておくべきだ。  自分の体の調子を探りながら、拳を前に構えた。左手を前に出し、右手は右目の下に、タンっタンとステップを小刻みに踏み始める。 「おーおーこいつは拳闘士か何かか? まあ微塵も魔力を感じねえし、剣持ってる俺たちにそんなの届––––」  動かしている顎に拳、一瞬の光景。騎士は少しも反応できる訳もなく、そのまま打ち砕く。  単純にして明快な打撃。針のような一指しは物の見事にキマってしまった。 「良い当たりだったな」  騎士の一人は、足下が崩れ去るような倒れ方をしてしまった。今の一発で気絶してしまったようだ。  他の二人の騎士は、あまりの事に動揺を隠せれないのか、距離を置くしかないのである。  目の前の現実離れした光景に恐怖を覚えている頃合いだろう。  けどな、これで許されると思うなよ。 「しまった、加減はしたんだがこうも早く倒れるか? 弱っちいな」  床に落ちた剣を拾い、適当に振る。  若干軽いが、耐久度は高そうだ。これならある程度魔力を込めても崩壊はしないだろう。流石は騎士、いい鉱石を使ってる。 「おい、次はチャンバラでもしようぜ。かかってこい」 「く……くそ! なめるなーーーーー!!!」  騎士の一人が飛びかかってきた。全体重を乗せた渾身の一振りだったが、難なく止められてしまう。  久しぶりに感じる金属の弾け音。  段々と戦闘の感覚が戻ってきた。 「ふーん、身体能力はそこまで落ちてないな」  自分の身体能力はそこまで落ちてないことに安心を覚えた。  魔力は確かに大幅に減ってはいるが、これくらいの戦闘能力があれば大抵の相手には負けはしない。  呆気に捉えられている間に超速の接近。  そのまま騎士の剣を弾き飛ばし、拳でみぞおちに一発。軽くやったつもりなのだが、アーマーが砕けてしまうほどの威力を出してしまった。  体がまだ上手く機能しないためか、力の加減が掴めない。  振り被って来た騎士も急にその場に倒れ込み、こちらも気絶してしまった。  脆い。 「な……な……何者だお前は!!俺たちに逆らうとどうなるか知っててやってるんだろうな!?」 「いや、全くわからない。どうなるんだ?」  自警団とか国の警察とか来たらかなり厄介だ。  とりあえずどうなるかだけでも知って置きたい。  「お、俺たちはこの「ノスタルジア」のお抱え騎士だぞ!俺達に手を出して騎士長が黙ってるものか!!重罪なんだぞ!!」 「そう……か、それは困ったな。いやほんとに困るな。うーん、まあいいか」  騎士長が偉い人だけってのはわかった。でもこんな奴らを野放しにしてるのはどうかと思う。とりあえずぶっ飛ばしとこう。  片手を前に出す。  空間を固定し、魔力の網を騎士の周りに生成。身体中に網を貼り付け、身動きを取らせない。 「うわわわ! うわわわわ! なんだこの魔法は!?」 「そんな驚くことか??」  この魔法はあまり知られてないのか? ただの物体移動なのに。  そして騎士を上空に上げ、一気に床に叩き落とした。  気持ちではある程度手加減はしているのだが、落とした瞬間それとなく大きな音が出てしまったのは反省している。  戦闘が終わり、多少は体の状態は分かったが、相手が役不足過ぎたのだ。満足な結果は得られなかった。 「こんなもんか。あまり色々試せなかったな」  持っていた剣をその場に置くと、女性に歩み寄った。  蹲っていた体は起き上がっており、女性は自分に回復魔法をかけていた。  その魔法は自分にとってあまり良く無い類の物だ。近づく事すら体が嫌悪してしまう。    少し離れた距離から、声をかけることにした。 「あの、大丈夫か?」 「はい、助けていただいて本当にありがとうございます。」  そういって頭にかけていたフードを取る。とんがった耳に、白い肌。そして顔の造形美。やはり見間違いなんかじゃない、エルフ族だ。 「(げ、エルフじゃないか。)こいつらはしばらく起き上がらないと思うから、今のうちに逃げといた方がいいんじゃないか?」  俺は昔からエルフに好かれたことは無かった。闇の戦士であると言う理由で、光の信仰者とも言えるエルフ族には大層忌み嫌われていた。嫌がらせも度々受けたことがある。それはどんなに世界を救っても変わることがなかった。 「いえ、大丈夫です。それよりも、あなた相当お強いのですね? 明らかにレベルが違いましたし、どこの団に所属しているかはわかりませんが、騎士団長か何かですか?」  このエルフは普通に話しかけてきた。自分の事を知らないとでもいうのだろうか? まあ確かに闇の力が失われているから何も感じないのかもしれない。  でも顔は割れてる筈だ。疑問は尽きない。 「えーっと、いいや、そういう所には所属していないよ」 「そうですか、なんて勿体ない」  そういってエルフはまたフードを被った。 「ではこれで……あ、私の名前はリフと言います。あなたのお名前は?」  名前を言うのは抵抗があったが、一歩進まないと始まらない。 「俺は名前は––––リベリだ」  名前でどのような反応をするのか気になったが、杞憂に終わってしまった。若干心臓が跳ねて変な汗が出てしまったが、夜なのではっきり見えないだろう。 「リベリさんですね、ありがとうございます。このご恩は必ず」  リフは走り去って行った。よっぽど急いでるのか、瞬く間に視界から消えていったのだ。  自分の名前に反応しなかったってことは、本当に知らないのだと判断できる。    だとすると、本当にここは一体どこなのだろう。  世界ごと変わってしまったのだろうか。  知らない国に、知らない街。  高度に発達した文明。  闊歩する騎士達。 「うーん、色々聞いとけば良かったなぁ」  グギュルルルルーーーー  相変わらず腹の虫は鳴きっぱなしだ。  もうすぐ猛獣になりそうな勢いだ。  この場にいると騎士長様がやってくる可能性があるので、一旦場所を離れる事にした。  まだ眠いし、どこか長い椅子でも無いだろうか。
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