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 あの騒動から十日ほど経った。ステラは一日ほど口を聞いてくれなかったが、ホットケーキを作り、謝り通したら許してくれた。私が料理を作れることに驚いたらしく、美味しそうに食べていた。たくさん練習した甲斐があったな。そうえば、あの時、何故私が助かったのか。あの話題を出すとステラの機嫌が悪くなるから聞けなかったが、恐らく人工呼吸とやらをしたんだな。まさか、彼との初めてのキスがあんなシチュエーションで……。 私のレベルも以前よりとはいかないが少しずつ元に戻り、得意であった魅了魔法も大レベルまで使えるようになった。これならもう、大丈夫か。 「お客さん~。本当にいいのです?」  私の持ってきたケースを見て、店員はちらちら顔を見ている。赤色の火魔法の中、緑の風魔法の大、そして例の衝立から持ってきた桃色と黒の二色の縞模様のケース。 「火魔法と風魔法はともかく、これ……魅了魔法を応用した記憶操作の魔法。代価足ります? これ」  大丈夫という意味を込めて、私は自らの心臓に指を差す。 「これなら、釣りが来るほどだろう?」 「ぐえー。心臓差し出す人初めて見た。一週間使わなかったら返却可能なので、使わないことをおすすめしますよ」  いつもの袋と共に出された赤い紙切れには「使用後心臓を抜き取ります」と記載してある。 「貴様には世話になったな」  店員は口を半開きにし、呆けた顔を浮かべていたが、突然口角を卑しくあげる。 「いえいえ~。世界の行く末を見れて満足です、ダブルピース」  あげた両の人指し指と中指で長い前髪をあげる。長い髪と言動が不快だが、顔だけは整っていて不気味なほど綺麗だった。  そびえ立つ魔王城。それを見て、ステラは言葉を失っている。正直、私も驚いている。まさか、あんな短期間で立て直すとは。 「嘘だろ……? 魔王城、確か火事で……」 「やはり、魔王が何かを企んでいるのだろう。きっと、この中に魔王がいる」 「……ああ。よし、行くぞマーレ!」  気合いを入れたのに、それの腰を折ってしまってすまない。指を鳴らすと、ステラは突風で飛ばされ、木の幹に縫い付けられてしまった。 身体に風の鎖が巻かれ、ステラは身動きが取れないようだった。じたばたする勇者に何も言わず、私は単身で魔王城に潜入した。 以前と全く一緒の構造に、苛立ちが走る。掌に火を灯し、注意深く周りを見渡すも罠などはないようだ。集中力が切れると火が掌に落ちるのでそこも注意深く。玉座の間に近づくにつれ、寒気が私の身体に走る。ぞわぞわとした感触は背筋を通り、なんだか脳までぞわぞわして来た気がする。吐き気を催しそうになるそれに嫌な予感しかしない。  ゆっくり、ゆっくり進み、やがて玉座の間に到着した。玉座には私が以前着ていた甲冑などが置かれている。 壁一面には人型の骨が吊るされ、中央には魔法陣が浮かび上がる。私が辿り着いたと同時に、魔法陣から紫色の球体が現れ、やがてまた消える。 それは大きな力の塊で、以前私が所有していた力や、ここに吊るされている魔族たちの力を集合させたものだ。 「みんな……すまない」  吐き気を抑え、玉座に向かう。「奴ら」に引き裂かれた仲間のことを思うと苦しい。そして走馬灯のように、あの地獄の日を思い出した。この甲冑を着たら、ステラの風魔法を解く。そして自分は、魔王として再び玉座で待つのだ。
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