1章 土の匂いがする

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 今朝、歩きなれた東京駅の在来線コンコースから、緑色の新幹線の表示に従って、東北新幹線の改札口を通った。 ホームには、鉄道好きの甥っ子が喜びそうな新しい新幹線が、何種類も入って来る。 ピカピカの新幹線を見て、子供みたいにワクワクする気持を抑えて、私は慎重に掲示板を確認して“なすの”に乗った。 “なすの”の自由席は、東京駅を出たときには空席が目立ったけれど、上野駅で空席はあらかた埋まったようだ。  東北新幹線はどんどん都会の喧騒を離れ、田園地帯に向かって行く。 宇都宮を出たら、次は那須塩原だ。 「まもなく那須塩原に着きます」と車内放送が流れ、やがて新幹線は滑るように止まった。 座席から立ち上がり、デッキまで進む。 新幹線のドアが開き、前の人に続いてホームに降りる。 そして、歩き始めようと息を吸い込んだとき、空気にかすかな土の匂いがするのを感じた。 ああ、懐かしい匂いがする…  彼に土の匂いがした訳でない。 なのになぜか、土の匂いが懐かしい…
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