1章 土の匂いがする

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 私とYは、大学を横断したサークルで知り合った。 上京して大学生になったけれど、まだまだ東京の暮らしに慣れない1年生の秋、ふとしたことからYと話すようになったのだった。 栃木県出身のYも、 「ようやく東京の暮らしや地下鉄の乗り換えにも慣れた」と言ってたな。 サークルの集まりの後、2人で路線図を見ながら行き先を決め、地下鉄を乗り継いで、ご飯を食べに行ったっけ。 勘違いでなければ、私だけでなく、Yも私に好意を持ってくれていたと思うのだけれど、2年生になると、お互い友人もできて他の活動で忙しくなり、私がサークル行った日にはYは来ていない、Yが来た日には私が休みということが重なって、疎遠になってしまった。 当時はまだみんなLINEで気軽に連絡なんてしていなかったし、わざわざメールするのは、ちょっと重い感じがした。 思い返すと、Yと最後に会ったのは、大学4年の夏の日の夕方、学生であふれる駅前の横断歩道だった。 Yは同性の友達と3~4人と笑いあって歩いていたが、私はたまたま帰り道が同じになった同じ学部の男友達と2人だった。 Yも私に気が付いたはずなのに、目を合わせただけで通り過ぎた。 「隣に歩く人は、ただの同じ学部の友人だよ」と、Yに伝える機会もなく、もちろんその後、会う機会もなく、そのまま卒業を迎えた。 卒業式の少し前、風の便りに、Yは地元に帰って就職すると聞いたが、今はどうしているのだろう?  元気でいるかな? もう一生会うこともないだろうけど、なぜか砂か土を飲み込んだような不器用な表情が懐かしい。 いやいや彼も、もうすぐ30歳。 今は社会の荒波に揉まれ、理不尽なことを飲みなれた鉄仮面になっているかもしれない。 眉一つ動かさない鉄仮面に。
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