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「メアド、知らねえのか?」
「知らないんじゃなくて、月夜が携帯持ってないの。家庭の事情でね…」
「あ、そうなんだ…」
「ところで、どうして月夜にメールしたいの?」
「い、いや!ちょっと、な…」
ジッと見つめられて思わず目を泳がせた新だったが、そのあとに呟いた小夜の言葉に疑問を抱いた。
「だけど月夜、どうして今日休むって電話くれなかったんだろ…」
「え…」
「何?」
「月夜さん、電話してくるのか?」
「うん、公衆電話からね。前に誕生日プレゼントにテレフォンカードあげたの、学校休んだときに連絡くれるようにって。なのに今日は連絡くれなかったんだよね、なんかあったのかな…」
「そ、そっか…」
『姉さん、なんだか具合が悪いみたいで…。せっかく来てくれたのにすみません…』
小夜の言葉を聞きながら、今朝家を訪ねた際に月夜のことを教えてくれた朧の様子を思い出し、新は何故か嫌な予感を覚えた。
しかし、小夜に休むと連絡を入れなかったことや、月夜の弟の様子がおかしかったというだけなので、気のせいだと思うことにした。
(あの日、一度は俺の家に泊まったとは言え、あのあとまた公園で寝てたからな…)
「ねえ…」
「ん?」
「いつから月夜のこと名前呼びになったの?」
「え?…あ!」
「月夜となにかあったの?」
「いや~…。た、たまたま、家が近いことを知って、少し話しただけなんだけど…」
「ふ~ん、家近いんだ。それだけ?」
「………」
「…ま、良いけどね」
「そ、そう言えば、月夜さん公園で寝てたけど、なんで家に帰らないんだ…?」
「…それは聞いてないんだ…」
「え?」
「あたしは言えない。月夜のプライベートなことだから」
「あ…」
「でも本当、どうして連絡くれないんだろ…」
「もしかしたら、家にいるからじゃないか?」
「え…、月夜、家に帰ったの!?」
「あ、ああ。公園で寝てたところを弟が運んでて、大変そうだったから俺も手伝ったんだ、昨日…」
「そっか、帰ってたんだ…。だけど、家か…」
突然なにか考えごとを始めた小夜に、新は(一体、どうしたんだ…?)と思いながらも声を掛けることは出来なかった。
放課後、月夜の見舞いに行こうか悩んでいた新の元へ小夜がやって来て、一緒に見舞いへ行かないかと誘ってきた。
二つ返事で、新は小夜と月夜の見舞いへ向かった。
道中、特に話すこともなく互いに無言だったが、新はそのことにホッとしていた。
月夜の自宅へ着くと、小夜はすぐさまインターフォンを鳴らし、応答を待った。
しかし、なかなか応答はなく、小夜とともに応答を待っていた新は、朝に会った朧の存在を思い出しながら、まだ帰って来ていないのかと考えて辺りを見回した。
その時、小夜が二度目のインターフォンを押し、もう一度応答を待った。
結局、二度目も中からの応答が無かったため、二人は月夜の見舞いを断念せざるをえなかった。
「月夜、大丈夫かな…」
「公園じゃなくて家にいるんだから、大丈夫だろ」
「だといいけど…」
月夜の家を後にした新と小夜は帰り道を無言で歩いていたが、不意に小夜が呟いた月夜を心配する言葉に、思わず言葉を返した新。
新の言葉に頷いた小夜ではあったが、それでも心配そうに振り返り、今来た道を見つめていた。
新と小夜が去ったのを窓から見つめていた朧は、口角を上げると、再び月夜の部屋へと戻っていったのだった。
(姉さんには、もう誰も近付けさせない。姉さんに触れて良いのは僕だけだから…)
「そうだよね、月夜…」
「スー…、スー…」
終わり
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