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異常な愛~姉弟~
とある家庭の少し年の離れた姉弟。
姉の名は月夜[つくよ]と言い、物静かであまり目立たないタイプの娘で、弟の名は朧[おぼろ]と言い、姉とは正反対にいつも人の輪の中心にいるようなタイプの少年だった。
両親はそんな子供達を小さい頃は分け隔てなく愛情をかけて育てていたが、月夜が年頃になると父親は性的な目で娘を見るようになり、その事に気付いた母親は息子の方ばかりを可愛がるように。
そんな家庭環境で育ったからなのか、いつからか朧は月夜を見下すようになり、月夜は家に自分の居場所が無いように感じて、高校に上がった頃から家に寄り付かなくなったのだ。
「ごめん、月夜!今お母さんからメール入って、今日、家に泊められなくなった…」
「…そう、ごめんね…」
「え!?月夜のせいじゃないよ!今日の夜、父さんが会社の人達連れて来るみたいでね…。そういう時、妹があたしの部屋に泊まるんだ。それで部屋がいっぱいでさ…」
「ううん。今まで泊めてくれて、ありがとう」
「今日はどうするの…?」
「公園で野宿、かな…」
「え~!?流石に夜は寒いよ…。気持ちは分からなくないけど、一回、家に帰ったら?」
「………考えとく…」
友人の小夜[さよ]の言葉に、今夜はどうしようかと考え始めた月夜。
ここ数日、月夜は小夜の家に世話になっていたのだ。
家へ帰る気になれない時は、こうして何人かの友人の家に世話になっていた。
どこも無理な時は、近所の公園に寝泊まりし、家へ帰るのは本当にひと月に数回あるかないか。
そして今回、一応と他の友人達に訊ねてはみたものの、週末だからか皆それぞれに用事があり、泊まる場所の確保は出来ず、放課後になってしまった。
(今日は公園ね…)
「あれ、帰らないのか…?って、宿題やってんのかよ!!」
「…早めに終わらせたくて…」
「普通は家に帰ってからやるもんだろ…。俺はやらねえけど」
「………」
「無視かよ!」
「…帰らないの?」
「ん~…、ギリギリまでいようかと思ってな」
「?」
この日の寝泊まり先を近所の公園に決め、週末に備えて宿題をしていた月夜に声を掛けてきたのは同じクラスの新[あらた]だった。
元々、クラスメートに小夜以外の友人がおらず、まだ一度も話したことのない相手。
しかも男子が声を掛けてきたことに月夜は驚いた。
けれど、それが表情や態度に出ることはなく、新も気にすることなく話し続けた。
月夜の前の席に、月夜と向かい合う形で座りながら。
「なんか好きなんだよな、昼間とギャップのある放課後の教室って…」
「………私も、放課後は好き…」
「ふっ、やっぱり…」
「?」
「あ、名前で呼んでいい?俺も名前で呼んで良いからさ!」
「…どうぞ…」
「月夜さんって、あんまり人とつるまないだろ。仲良いのもこのクラスじゃ一人くらいだし、だからっていじめられてる訳でもないし。本当に一人でいるのが好きなんだなって思ってさ」
「………好きと言うか、楽だから…」
「楽か…。あ、だったら俺、邪魔だったよな?」
「…別に、気にならないけど」
「マジで!?良かった~」
「………」
新のホッとした表情に、月夜も少しだけ表情を緩めた。
こうして、月夜が新と他愛の無い話をしている内に学校は閉まる時間になり、二人は帰る準備を終えると門を出た。
別れを告げた月夜が歩き出すと突然呼び止められ、振り返ると、「送ってく…」と言って駆けてきて隣に並ぶ新。
驚きながらもやんわりと断った月夜だったが、新は「暗くなってきてるから」と言って引き下がることはなかった。
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