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「そ、そうなんだ…」
「ん?なんか元気ないな、どうした?」
「う、ううん!そんなことないよ」
「そうか?ならいいけど!!」
突然掛けられた声に慌てて顔を上げた実花の目に飛び込んで来たのは、隣の席の水野の姿だった。
驚きと声を掛けられた嬉しさに動揺しながらも、一言一言返していた実花。
そんな実花の態度に首を傾げていた水野だったが、実花の言葉に納得すると笑顔で頷いた。
しばらくの間、他愛のない話をしていた実花と水野だったが、不意に水野が他の友人達に呼ばれて行ってしまった為、実花は一人になった。
それでも普段よりは少し長く水野と話が出来たことの喜びが大きかったので、昨夜の嫌な出来事も大分薄れ始めていた。
(水野君はいつも明るいな…)
その後の授業や休み時間、昼食中でも実花は水野と話す機会に恵まれ、この日は実花にとってとてもいい日になった。
帰る準備をする頃には、あまりの嬉しさで昨夜の出来事を忘れるほど。
(今日は水野君とたくさん話せて嬉しかったな。まあ、全部水野君から話掛けられて返してただけだけど…。そう言えば水野君、私のこと名前で呼ぶって言ってたけど…)
「あ、実花ちゃんも掃除当番なんだ」
「え?う、うん…。あ、本当に名前…」
「嫌だった?」
「ううん。大丈夫」
「良かった!!」
「…そう言えば私‘も’って、水野君は今日当番じゃ…」
「用事がある奴と代わってやったんだ」
「そうなんだ…」
(どうしよう、凄い嬉しい)
「実花ちゃん」
「な、なに?」
「オレのことも名前で読んでいいからな!」
「え…?」
「じゃあ、掃除すっか!!」
言うなり箒を持ち出し、他の当番に手渡していく水野。
一方、水野の言葉を何度も頭の中で繰り返していた実花はようやく理解すると、顔を真っ赤にして俯いた。
(水野君の名前を呼んでもいいって…)
「実花ちゃん、はい箒!」
「!あ、ありがとう…」
笑顔の水野から箒を受け取り、掃除を始めた実花は、掃除が終わるまでずっとその事について悩み、考えていた。
(水野君の、名前…)
「よし、終わったな!さ、帰ろっか実花ちゃん」
「う、うん…、航[わたる]君…」
「!実花ちゃん、オレの名前…」
「あ、ご、ごめんね、急に…」
「っ~…、あのさ、実花ちゃん…」
「やっぱり、嫌だった?」
「ううん。名前呼ばれて、スゲー嬉しい!!」
「あ、よ、良かった…」
「実花ちゃんって、好きな人…いる?」
「好きな…人?」
名前を呼んだという気恥ずかしさと、嫌がられなかったという安堵感から、実花は次に放たれた航の言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。
けれど、内容を理解すると顔を真っ赤にして俯き、口ごもってしまった。
実花のそんな態度に航は少し動揺したが、意を決すると、強く拳を握り締めて、自分の気持ちを伝えた。
「…急で驚くかもしれないけど、オレ、実花ちゃんのこと…好きなんだ…」
「…え?」
「昨日さ、オレ、実花ちゃんの消しゴム拾って渡しただろ?」
「う、うん…」
「あの時、あまり話せなかったけど実花ちゃんが凄い嬉しそうに笑ってくれて、それから一晩中、実花ちゃんのことが気になって気になって仕方なかったんだ…」
「!!」
「それで今日の朝、よく遊んでる奴らに相談したらオレは実花ちゃんが好きなんだって言われてさ。自覚したらいてもたってもいられなくなったんだ」
「………私も、航君のこと…、ずっと好きだったよ…。同じクラスになった時から…」
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