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照れくさそうにしながらも、自分のことを話してくれた航に実花は自分も伝えなくてはと思い、戸惑いながらも口を開いた。
まさかの実花からの告白に始めは驚いていた航だったが、自分の気持ちが通じたのだと知ると、勢い良く実花に抱き着いて喜んだ。
抱き着かれた実花も驚きはしたものの、身体に伝わる熱からじわじわと両思いであることを実感し、自らも腕を伸ばした。
しばらくの間そうして二人は抱き締めあっていたが、不意に実花の脳裏を嵐が横切り、航に回していた腕に少しだけ力を込めた。
「…どうしたんだ?」
「ううん…。ごめんね」
「何が?」
「私は航君が好き。だけど…、付き合えない…」
「どうして!?」
「お兄ちゃんが、航君に迷惑掛けるかもしれないから…」
「‘お兄ちゃん’って、お兄さんがどうして…」
「っごめんね…」
実花は航から離れると、謝りながら鞄を持ち、教室をあとにした。
訳が分からないながらも、納得がいかなかった航は、同じように鞄を手にすると実花の後を追い掛けた。
漸く航が実花に追いつけたのは下駄箱で、追いつくなり航は実花の腕を掴み、逃げられないようにと強く握り締めていた。
「実花ちゃん、待ってよ!!」
「痛っ…」
「ご、ごめん!だけど、もう少し話を…」
「本当にごめんなさい、航君…」
「オレに迷惑掛けるって、どうしてお兄さんが? もしかして、家が厳しいから、とか…?」
「これ以上は…」
いくら訊ねても答えようとしない実花に困り果てた航は、「わかった、もう聞かない。だけど、今日は途中まで一緒に帰りたい」と言って一度靴を履き、実花へと手を差し伸べた。
航の急な行動に戸惑う実花だったが、それなら大丈夫だろうと思い、そっと手をとった。
嬉しそうに笑った航に胸が高鳴るのを感じていたが、頭にチラつく嵐がそれを邪魔した。
そして、現実でも…。
「実花ちゃんが手をとってくれるとは思わなかったから、マジで嬉しい!!」
「…私も、航君が手を差し出してくれて嬉しかった…」
「オレさ、実花ちゃんに話し掛けた時、心臓破裂するかと思うくらいスゲードキドキしてたんだ」
「え、そう言う風には見えなかったけど…」
「そりゃそうだよ。バレたら恥ずかし…あれ?門のところに誰か立ってる」
「え?…あ」
「うわっ、目が合った」
「嵐、お兄ちゃん…」
「え…、お、お兄ちゃん!?」
「…ごめんね、航君…。私、行かなきゃ」
スッ
「み、実花ちゃん!?」
先に気付いたのは、航だった。
門のところには若い男が立っていて、航がそのことに気付いて呟くと同時に、実花が視線を向けた。
瞬間、男は二人の方へ顔を向け、その顔を見た実花は青ざめながらその男の名前を呟いていた。
目が合ったことにも驚いた航だったが、実花の発言にも更に驚きの表情を見せた。
内心焦った実花はすぐに航の手を離し、急いで嵐の元へと駆け寄った。
急なことに焦って実花の名前を呼びはしたものの、実花が振り返ることはなく、残された航は黙って実花が嵐の車に乗り、去って行くのを見送るだけだった。
一方、航と別れの挨拶すらせずを嵐の車に乗り込んだ実花は、嵐に航のことが気付かれていないことを祈っていた。
(お兄ちゃんが気付いてませんように…。航君のことが気付かれたら、お兄ちゃん、航君に何するか分からないし…)
昨夜の出来事が頭を過り、実花は俯いたまま嵐と一言も交わすこと無く、早く家へ着かないかとばかり考えていた。
しかし、そんな実花の思いとは裏腹に家の方角とは反対方向へと走って行く車。
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