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異常な愛~兄妹~
ガチャ
「…実花。今、誰のこと言ってたんだ?」
「お、お兄ちゃん!?何でいつも勝手に入ってくるのよ!!」
バタン
「俺が聞いてるんだ」
「…お兄ちゃんには、関係ないでしょ…きゃっ!?」
ドサッ
「関係ない、か…。ふっ、関係あるんだよ、十分な…」
「…どういうこと?」
「お前が心に留めていいのは、俺が認めた相手だけだ」
「心に留めるって…。そんなこと、勝手に決めないで!!」
「お前が生まれこの手に抱いた瞬間、俺はお前を一生誰にも渡したくないと思った。そして、他に男が近付かないようにずっとお前を見守っていたんだ…」
ギシッ
「何言って…んぅ?!ん~!!」
チュッ
「~…はっ、あ…。な、なにすんのよっ!?」
「俺は、俺以外の男は認めない…」
実花[みか]が学校を終えて自宅へ帰ると、一台の車が家の前に停まっていた。
その車を見た途端、実花は膝を返し、家とは反対方向へ歩き始めた。
車の持ち主に会いたくなかったからだ。
けれど、家を出てきた人物に見つかってしまい、名前を呼ばれた実花はしぶしぶ足を止め、振り返る。
そこにいたのは、車の持ち主で実花が会いたくなかった人物、嵐[あらし]であった。
嵐は、実花の年の離れた兄で今は離れて暮らしていた。
「実花、お帰り。…ところで、そっちに家は無いぞ?」
「分かってるわよ…」
嵐の言葉に、実花は小さく溜め息を吐くと仕方なく家へと向かって歩きだした。
実花が玄関先までやって来ると、嵐は実花の肩に手を回し、家の中へと誘導する。
「学校、どうだった?」
「…楽しかった」
「本当か?あんまり楽しそうには見えないけど…」
「…お兄ちゃんがいるからよ」
「俺が?」
「もう、触んないで」
スルリと嵐の手から抜け出し、母親へと声を掛けた実花は着替えるために自室へと向かった。
残された嵐は、手に残った実花の体温を握り締め、母親の元へ。
部屋に入り、戸を閉めて誰も来ないことを確認してから実花は制服に手を掛けた。
こうしないと、安心して着替えられなくなってしまったのだ。
(どうしてお兄ちゃんが帰ってきてるのよ…。最悪…)
トサッ
ボフッ
「お正月まで帰ってこれないって言ってたのに…。水野君と話せて嬉しかった気分が台無しよ…」
(でも、水野君優しかったな…)
ベッドへと横になり、枕に顔を埋めながら嵐への文句を呟いていた実花は、水野[みずの]とのことを思い出し足をバタつかせた。
水野とは、実花の同級生でいつも明るく元気な男子生徒なのだ。
そして、実花の一目惚れの相手でもあった。
席が隣になれた日、嬉しさのあまり寝られず、翌日は遅刻してしまうほど水野に好意を抱いていた実花。
この日は、消しゴムを落としたことがきっかけで水野と少しだけ話せた実花は、その時の彼の対応や優しさを思い出して浮かれていた。
(『消ゴム落とすなよ。ま、無くしたら隣のよしみで、貸してやらなくもないけどな』だって~!!)
「まあ、すぐに他の男子達に囲まれてお礼すら言えなかったけど…。…もっと、水野君と仲良くなりたいな…」
漸く巡ってきた機会だった為、実花の喜びはひとしおだった。
けれど、この時も水野の側には普段と同じく人だかりが出来ていて、会話はおろか一言も返すことが出来なかったのだ。
「思ってるだけじゃダメなのは、わかってるんだけどな…」
ガチャ
「…実花。今、誰のこと言ってたんだ?」
突然戸を開け、実花へと声を掛けたのは嵐だった。
驚いて身体を起こした実花は、独り言を聞かれていたことを恥ずかしく思い、嵐へと向き直り食って掛かる。
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