アシスタント

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アシスタント

新しいクライアントの担当の竹之内翔のアシスタントは、ほぼ私に決まりかけていた。 竹之内翔は、新しいクライアントの仕事に気合いが入ってるのか、一生懸命にミスがないように調べて、毎日残業だった。 残業の合間に、ラウンジでコーヒーを飲んでると、竹之内翔の先輩で、小杉直也40歳が来た。 「竹之内、アシスタントは、吉永さんに決まりそうらしいが、オレのアシスタントにされた稲葉さんと変えてくれないか。稲葉さん、誤字脱字多いし、仕事遅いし、ミス多いから、オレも大事なクライアントを担当してるからさ、頼むよ」 小杉直也は、竹之内翔に、無理なことを言い始めた。 「なんでですか。オレだって、新しいクライアントだから、ミス出来ないですよ。それは、お互い同じじゃないですか」 竹之内翔は、急なアシスタント替えに納得がいかず、かなり先輩である小杉直也に反論した。 「オレは、先輩だぞ。先輩がアシスタント変えてくれって頼んでるのに言うこと聞かないのか。オレは、年上のオバサンのアシスタントなんか嫌なんだよ。仕事出来るならまだしも、煩いし、吉永さんの方が、正確でミスがないから、安心できるんだよ」 小杉直也は、急に先輩ヅラをし始めた。 「それはオレも同じじゃないですか。部長だって、新しいクライアントだから、最初が肝心だから、吉永さんがアシスタントの方がいいって言ったんですよ」 「あーそう。じゃあ、オレから部長に変えてもらうように言うから、いいわ。ったくよー今の若いヤツは、先輩を立てるってこと知らないのかねー」 小杉直也は、イヤミを言いながら、去っていった。 竹之内翔は、不満だった。 竹之内翔は、三ヶ月前に彼女と別れたらしい。 だから、あの夜、私と一緒だったのだろう。 とりあえず誰でも良かった。 じゃなきゃ、年上の私と過ごすはずがない。 私は、13年間、正社員で働いた会社で、2歳年上の営業の男性と5年間付き合っていた。 結婚の話がチラホラ出ていた矢先だった。 私の後輩の26歳の女性と付き合い始めて、彼女が妊娠し、彼は、あっさり後輩と結婚をした。 職場の人達は、私を不憫そうな目で見ていた。 そのまま会社にもいられるはずもなく、会社を辞めた。 37歳で転職は、厳しいものがあったが、契約社員ならと、すんなり今の会社に決まった。 夜10時に、竹之内翔が来た。 「今日、木曜日だよ。どうしたの?」 いつも金曜日の夜に会ってる私達だったから、突然マンションに来た竹之内翔に驚いた。 「木曜日に、来ちゃ悪いのかよ」 竹之内翔は、かなり不機嫌だった。 私の部屋に、ネクタイをほどきながら、ツカツカと入っていき、ソファにどかっと座った。 「あームカつくっ。小杉のオッサンの奴」 竹之内翔は、ぼやいていた。 小杉直也に、何か言われたのだろうか。 竹之内翔は、かなり営業として、上司からも見込まれてるから、先輩からの僻みもあるだろう。 「なんで、オレが稲葉のオバサンと組まなきゃいけなんだよっー」 稲葉仁美と、組む? それってアシスタントは、稲葉仁美になったということだろうか。 「先輩だからとか、関係ないだろーが。小杉のオッサンより営業成績は、オレの方がいんだからよ」 こんなイラついてる竹之内翔を初めて見た。 「嫌がらせだ。あんな稲葉のオバサンを押し付けるなんてよ」 竹之内翔は、どさくさまぎれて、稲葉仁美をオバサン扱いをしていた。 それを聞いて、私は、思わず笑ってしまった。 「なんだよ。何がおかしんだよ。オレは、ムカついんてんのに笑うなんて」 「だって、稲葉さんをさっきから、オバサン、オバサンって、本音を言い過ぎなんだもの。会社で言ったらセクハラだよ」 会社での爽やかな竹之内翔のイメージから、想像できない。 「別にいいだろ。彼女の前でくらい本音言ったってさ」 竹之内翔は、私を見て言った。
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