転職。

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転職。

私は、吉永かりん。 13年働いた会社を辞めて、契約社員で働き始めて1年。 38歳、この歳で、正社員で転職は無理だろうと、良い仕事が見つかるまでと軽い気持ちで契約社員になってズルズルと一年もいた。 契約社員の同期で、43歳の稲葉仁美。バツイチ。大学生の娘さんがいるらしい。 私より5歳年上だが、積極的に社員の男性にアピールする。 営業の竹之内翔。30歳。 稲葉仁美は、この竹之内さんに積極的だ。 「竹之内くーん。資料手伝う?」 社員である竹之内翔に、タメ口である。 長く伸ばした髪をかきあげながら、稲葉仁美は、竹之内翔と話をしていた。 初夏でも、暑いというのに、髪を縛らず、やたらかきあげていた。 暑くないのだろうか。 「この資料は、吉永さんに頼んでるから」 竹之内翔は、私を見ながら、稲葉仁美に言った。 「あ、資料出来てます」 私はプリントして、竹之内翔に、資料を渡した。 「さすが、吉永さん、仕事早いな。吉永さん正確だし助かる」 竹之内翔は、笑顔で資料を受け取った。 その様子を稲葉仁美は、面白くなさそうに見ていた。 稲葉仁美は、43歳でも、かなり自分に自信があるようだ。 見た目も、仕事の能力も、私より勝っていると思っているらしく、何かと挑戦的である。 しかし、いくら稲葉仁美より年下とはいえ、私も38歳だ。 この会社には、大卒の若い社員の女性が沢山いる。 それを私に張り合わられても、問題外なように思える。 新しいクライアントが決まり、担当の竹之内翔のアシスタントを決めることになった。 社員の女性は、自分の担当を持っているので、契約社員が手伝うことになるらしい。 竹之内翔のアシスタントになりたくて、稲葉仁美のアピールは、一層激しくなった。 朝から、色ぽっい声をだして、稲葉仁美は、竹之内翔に声をかけていた。 「竹之内くーん。何か手伝うことある?なんでも言ってえー」 また長い髪をかきあげながら、話をしていた。 私は、年齢を考えると、8歳年下の竹之内翔に、積極的にはできない。 馴れ馴れしくして、うざがられそうだし、年上の女性が、年下男子を捕まえようと必死な感じもイヤだった。 私は、とくに美人でもないし、ゴロゴロいるようなタイプの38歳だ。取り柄といえば真面目なことだけだ。 バツイチ子持ちでも、自分を積極的な稲葉仁美とは、対象的だった。 私も、もっと自信持てたらと、いつも思う。 金曜日に、稲葉仁美は、竹之内翔を食事に誘っていた。 「すいません。仕事残ってるので、今日は無理です」 竹之内翔は、残業だからと断っていた。 新しいクライアントも決まったし、忙しそうだった。 「手伝いますか」 私は、忙しそうに資料を作成している竹之内翔に、言った。 「本当に?ありがとう。すげー助かる」 竹之内翔は、嬉しそうな顔をして、私にタメ口になっていた。 二人で、21時まで資料を作った。 「あー終わった。吉永さんが手伝ってくれたおかげで、土曜日出勤しなくてすむ。ありがとー」 竹之内翔は、爽やかな笑顔で言った。 でも、私は、こんなことしか出来ない。 見た目で、竹之内翔を癒やすことは出来ないし、うまく持ち上げることも出来ない。 稲葉仁美に比べるば、女性の色気も、フェロモンもない。 地味だ。 「夕飯奢るから、食べていこうよ。オレ良い店知ってるから」 あっけらかんと竹之内翔は言った。 さっきは、稲葉仁美の食事を断っていたのに。 勘違いしてはいけない。 私は、どうでもいい女性だから、気を使わず、誘っただけだ。 「明日休みだから、遅くなってもいいよね?」 屈託のない笑顔で、竹之内翔は、決めつけて言った。 本当に遅くなった。 私が家に帰ったのは、日曜日の昼だった。
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