拾壱

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拾壱

「目覚めたか」 聞き覚えのある声に常雅はゆっくりと重い瞼を押し上げる。 目に飛びこんできたのは、一見男か女か判断のつかない端正な顔だった。 さらりと肩に流した艶やかな髪はその年の女子にしては短すぎ、ほっそりとした首は男にしては白く頼りない。 肘をついて体を起こすと、こめかみを突き刺すような頭痛と目眩に襲われた。 「まだ横になっておれ。煙を吸い込んだせいだ」 凛としたその声はいつものように御簾越しではなく、すぐ隣から聞こえる。 「……主上」 「ここでは浅霧(あさぎり)と言う名だ。お前は(からす)だ」 起きぬけの頭では理解し難い言葉に、常雅は眉根を寄せる。 ふと辺りを見渡せば、そこはみすぼらしい荒屋で、そこに座す御方の不釣り合いさと言えば、怒りさえ沸くほどだ。 確か内裏が火事になり、自分は誰かに手を引かれて炎の中を抜け出した。 そこまでは覚えている。しかし、あの火事がいかに酷く内裏を焼き尽くそうとも、時の帝がこのような荒れ果てた家に御座すなどあってはならない。 しかしながら、浅霧と名乗り主上は身分を偽っている。そして常雅もまた鴉と言う名を与えられた。となれば、世間を欺きつつ何か成さねばならぬことがあるに違いない。 「他に人は……」 「今私の身辺にいるのは他に四人だ。皆今は出払っておる。仔細は朽葉(くちば)という者が戻った折に聞くがよい」 常雅は素早く室内の様子を見てとり、退路などを確認しようと起き上がる。 傍にいるのが帝ただお一人と分かってからは、直視せぬよう目を伏せていたのだが、どうやっても躑躅(つつじ)襲ねの裳裾(もすそ)が目に入る。 女官ではない。
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