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ノリや、カノが入ってくる前にいた巫女たちは、皆神殿の外に住んでいる。長くて三年、彼女たちは役目を終えればその後神殿にくることはない。 帰る場所のないイトは、他の巫女達とは違う。 それでもずっと夢を見ていた。 空の彼方、まだ見たことのない世界をこの目で見てみたい。 イトの中にはっきりと二つの相反する感情がある。 ひとつは神の木を守り、この国のために生きたいと思う気持ち。 もう一つは自由に心の赴くままに生きたいという気持ち。 どちらを選んでも、選ばなかったもう一つの道を後悔と共に抱えて生きていくことになるだろう。 イトには、まだどちらかを選べるほどの覚悟はできていない。 常雅の優しい笑みが不意に目に浮かんで、イトは狼狽える。 自分を庇ってくれた大きな背中。飴を咥えて笑う子どもみたいな横顔。 ――最後にもう一度会って礼を言いたかった ポロリと零れた涙にイト自身は気付かない。カノは言い過ぎたかと眉根を寄せたけれど、見て見ぬ振りをした。 自分だって、本当は入内などしたくない。得体の知れない神様よりは同じ人間である主上の方が少しはましだろうか。どちらにしても逃げられないことに変わりはないのだからと。
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