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胸の内と外から羽根丸の体を突き破ろうとするかのような痛みが襲ってくる。
「……それを私が許すと思うか」
つい苦々しくそう呟けば、イトは大きな目を潤ませて羽根丸を睨み返す。
「許してくれると思うからここに来たんだよ」
羽根丸は天を仰いで嘆息した。イトには勝てない。そんな風に返されては許さないわけにいかないではないか。
「……なぜ、そなたが探しに行かなくてはならんのだ」
不満を隠さずにそうぼやけば、イトは少し考えてから口を開いた。
「常雅殿に助けてもらったから。それに街を見せてもらったお礼も言えてない」
理由にもならない理由に、羽根丸はすかさず言い返す。
「イトが行ったところで足手まといであろう」
「そ、そうかもしれないけど、もしかしたら困ってるかもしれないのに、何もせずにはいられないよ!」
幼子が駄々をこねるように、イトは一歩も引く気を見せず、固く拳を握りしめている。
そんな様子につい虐めたくなるのは昔からだ。結局最後は羽根丸が折れることになるのだが、簡単に許してやれるほど寛大でもない。
「己が街へ行きたいだけではないのか?」
「……龍神様の意地悪」
龍神様と呼ばれたことに羽根丸の中で苛立ちがつのる。
「右も左も分からぬのに人探しなどと」
「分かりました。お許しがいただけないのなら、龍神様のお嫁様にもなりませぬ」
「イト!」
勢いよく立ち上がって踵を返すイトの手を羽根丸が掴む。
小刻みに震える肩で、イトが泣いているのが分かった。
「何故泣く」
いつもの他愛無い言い合いではないか。最後には羽根丸が折れることを知っているはずなのに、何故泣くことがあるのかと、聞くのももどかしく小さな背中を抱きすくめる。
イトは何故泣くのか自分でも分からないと言うように首を振り続けている。
籠に閉じこめられるのを知って必死に抵抗する鳥のように、イトは無意識に己を取り巻く変化に抗おうとしているのかもしれない。
この手を離さなければ、イトは死んでしまうのではないか。そんな思いがふと過ぎる。
「一人で行かせることはできぬ。どうしても行くと言うなら私も行く」
ぴたりとイトの震えが止まる。恐る恐る振り返るイトに、羽根丸は涼しい笑みを返す。己の言葉に、口にした本人でさえ驚いていることはおくびにも出さない。
さて、どのようにして神官どもの目を欺くか。
羽根丸の頭の中では急速に考えが巡らされていく。これまで味わったことのない高揚感に、さっきまでの胸の痛みは消え失せていた。
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