どうか、来世も。

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――――――  よくよく調べてみれば栃木県には割りと日本遺産、が多いっぽい。まぁ、他県がどうなのかは知らないが、ここまであるとは思っていなかった。とりあえず外に出ては見たものの、この時期にもなると朝8:00はもう肌寒い。関東といえど、11月を舐めるべきではなかったと後悔しつつ、チャリで走ったものの、どうやら道に迷ったらしい。極度の方向音痴の僕に、地図は手強い。と、思っていると、同い年位の少女に気づいた。髪は長めで、じっと朝の空を見つめている。同じ学校だろうか。200人ほどいる同級生たちを、全員覚えるほどの記憶力も交流も持ち合わせていないため、彼女が同じ学校かどうかは分からなかった。と、彼女と目が、あった。にこり、と笑いかけた彼女はこちらに向かってやってくると 「おはよう、青木佑介くん。」 と上目遣い使いに言った。 「おはよう、って、え?きみ、なんで名前……」 だって、と、 「だって、私たち、前世で会ってるじゃない!待ってたよ、ここに君が来るのを。」 ぎゅっと笑いかける彼女を前に、理由になってないと、『だって』の使い方を間違えてると僕は冷静に彼女を見つめた。 ――――――  「で、前世ってどういうこと?ていうか君は?誰?で、最大の疑問は……」 「はいはい、ストーップ!ちょっとづつ答えるから!」 彼女は愉快そうに僕の言葉を遮る。じとっと横目で見ると、ゴホン、とわざとらしい咳払いの後に彼女は続けた。 「まず、自己紹介から~!どうも!ミステリ大好き!君と同じ学校、同じ歳の松方るかです!平仮名で、『るか』!因みに大の暗号、日本史好きで、部活にも入っており…」 やけに感嘆符の大い脳内変換に僕は苦笑する。全く記憶にない名前だ。たぶん聞いたことすらないが…… 「笑った…やっぱ、前世、と一緒で笑い上戸なんだね!ねね、私のこと思い出した!?」 と、この調子だ。悪い子には見えないが、自覚のない悪い子ほどたちの悪いものはない。 「まぁ、こんな話突然するのもどうかとは思うんだけどね。」 ……自覚はあるのか。て、そうじゃない。問題はこの状況だ。 「えっと、松方さん…?は、なんで僕に付いてきてるのかな?」 そう、彼女は僕の調べ学習に付いて来ているのだ。まぁそれに対してわざわざチャリを押して歩いている僕も大概だが。 「だって、調べ学習でしょ?佑介君。」 …なんで分かるんだよ。 「私にも出てるから、その宿題!そして私、実は暗号ミステリ研究部だけでなく、歴史研究部でしてね、日本遺産に多少詳しいのです!」 「心でも読めるの?松方さん。」 どや顔の彼女は半ば強引に僕の行き先を決め、それなのに僕は不思議と断れず、暖かくなってきた国道294号線沿いを二人きりで歩く。
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