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――――――
「最近なんか良いことあった?」
「うぉっ!また笹やんかいな」
笹島が僕に聞いてきたのは、るかとの約束を明日に控えた金曜日だった。
「なんで?」
「いや、最近楽しそう」
「そう…?まぁなんもないけど。」
るかのことは言わなかった。こないだのことがあって気まずかったし、なにより、るかは彼女じゃないし。
「あそ。まぁいいけど。それより、調べ学習、進んだ?」
「え、あぁ、それな!大丈夫、余裕だ!」
笹島がニヤリと笑った。
「ほー。それ関連か。ついに彼女か~?」
「はっ!?ち、ちげーし!友達だし!っあ…。」
さすが幼馴染み。笹島には勝てない。
「まぁ大事にしろよな。」
「…ん。」
本当に?僕は本当にるかを大事にできる?
一瞬でもそう思ったせいだろうか。次の日、約束の場所にるかは来なかった。
――――――
「来ないな…なんかあったかな。」
2時間をすぎても、るかはこなかった。そして僕は彼女についてなにも知らないことに、ようやく気づいた。知ってるのは名前と学校、部活くらい。好きな食べ物も、嫌いな動物も、彼女の家さえ知らなかった。そもそも学校が同じなのに会いに行くこともなかった。そこに思考が向かなかったのだ。クラスさえ知らないなんて。
「ホントに、なにも知らないな……。」
自分の馬鹿さに嫌気がさす。なにも知らない僕に、なにも言わずに会わなくなる。当然っちゃ当然か。学校に行けば会えるだろうか…
「いや、待てよ。なんで部活知ってんだ?」
(暗号ミステリ研究部)
「暗号……」
るかとの会話を思い出す。なぜ、るかは部活について話したのか。なにひとつこぼれないように、取り残しのないように…。るかの笑った顔ばかりが次々と浮かぶ。
(きれいな参道とかさ!)
(どうよ!好きでしょ!)
そして、
(私の恋人、だったんだ。)
あの、寂しそうな笑顔も。
「参道?」
るかと行った場所を思い出していく。
大田原市歴史民俗資料館、大野放牧場、そして山田農場事務所跡。その頭文字は、
「大山、参道か……!」
僕は一目散に駅に向かって走り出す。
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