どうか、来世も。

1/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
  イヤホンからなだれ込むロックとは裏腹に、車窓の景色は和やかに流れていく。電車に揺られながら約15分。初めはドキドキだった電車通学も、2年も経てば、面倒にしか感じなくなっていた。こんな高校生活になるなんて思っていなかった。平和な日常は必ずしも順風満帆とはいかない。刺激もなく思い描いていた高校生活とは遠くかけ離れた自分を、僕は今、真正面から認められる自信がない。中学で真面目に勉強していた反動か、高校では遊んでばかりの毎日。だからと言って学校をサボる勇気もなく、中途半端でお先真っ暗な未来が迫ってきている高校2年生。だからといって将来を考える暇などなく、目先のことで頭がいっぱいだ。今日の1限は確か、 「 数学か……。」 小さくため息をつく。 「次は~黒磯~黒磯~お降りの方は……」 またこうして貴重なスキマ時間を下らない思考に費やしてバカになる。同じ学校の生徒も違う学校の生徒も、一緒くたになってホームに流れ込んでいく朝の日常。同じ高校生という縛り、でも、この縛りのなかに個性を見つけないとこの時代では生きていけない。学校へ向かう道のなかで、僕は気取ってこの時代を呪う。仕方ない。悪いのはなにもしない僕なのだから。 ――――――  「おい、おいってば、佑介、起きろよ」 肩を揺らされはっと目が覚める。 「うぉっ!なに、笹やんっ」 「いや、授業終わってっから。」 その冷静な突っ込みに、ふぅーと息を吐く。 「マジか……完全に寝てたわ」 笹やんこと笹島叶真は眼鏡をかけた真面目な風貌の友達だ。が、その近寄りがたい雰囲気とはうってかわって、優しく、スポーツ万能でやっぱり頭がいい。そんなやつがなんで俺と仲が良いかというと、 「気にすんなよ、幼馴染みだろーが。」 そう。僕と笹島は幼馴染みなのだ。なのに最近はそんな大事な友達にまで劣等感を感じてしまう。ここまでくるとほんとに自分が嫌になる。 「で、なんかあった?」 「宿題。調べ学習しろって。」 「は?」 笹島が言うには『日本遺産』とやらを調べろってことらしい。なんだそれとは思ったが、宿題をサボる訳にはいかない。こういうところで変に真面目なのが余計嫌だが仕方ない。 とりあえず、やるしかないのだ。  家に帰ってベッドに横になる。家には父親しかいない。一昨年、母と離婚した父親とは別に険悪な関係ではない。が、特に話すこともないし、勉強もしないから残念ながらやることもない。手持ちぶさただった僕はスマホで何気なく『日本遺産』を調べることにした。 「文化庁が認定した地域の歴史的魅力や特色を通じて日本の文化・伝統を語るストーリーで、各地域の有形・無形の文化財群。地域が主体となり国内外へ発信することで地域活性化を図ることを目的とした、日本の文化遺産保護制度、か……。よくわかんねぇな。」 なにか歴史的なものってことは分かったが、なにがあるのかとかは、調べないと分からない。が、そこで眠くなってきたため、スマホの画面を落とす。下がってくる瞼に負けじと、明日探索にいってみようと心に決めて、僕は深く眠る。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!