471人が本棚に入れています
本棚に追加
突然降って沸いてきた話に綾斗はブンブンと首を横に振る。
「ムリ!!ヤダよ!てかなんで男が女装なんかしないといけないんだよ!」
「女子がその場のノリで決めたんだよ」
「ノリかよ!?」
「うん。しかもメイド喫茶するって決めたその日に、女子の実行委員長が男子の中で誰が女装するかメンバー選出しろとか言ってきてさー」
とつとつと話す錦織の眼はその日の事を思い出してるのか虚ろだ。
「綾斗君はあの日学校休んでたから知らないだろうけど、誰がその役するか男子の中でもう揉めに揉めてさー」
他クラスよりも比較的大人しい男子が集まる1-Aだが、その日は男子の間で誰が女装役になるか話し合ったり推薦したり擦り付け合いったり、しまいには白熱したジャンケン大会を開催したりと、やっとの事でそのメンバーを決めたと錦織は話した。
だから、その場に居なかった綾斗は人数合わせの為即メンバー入りを果たしたのだと言う。
「ちょっと待てェェ!だってそんな事錦織君もクラスの皆も僕にひとっ言も云って無かったよね!?」
必死の形相で綾斗は錦織に詰め寄る。
「うん。云わなかったよ?だって云ったら綾斗君女装するの嫌がって今日仮病使って休んだでしょ?」
「って事はワザとじゃねェかア!」
「だってさー、実は俺もその女装メンバーの中に無理矢理入らされたんだ。だからなんつーか…死なばもろとも、みたいな?」
「みたいな?じゃねーよ!思い切り計画的じゃん!」
「それに綾斗君がこの衣装着なかったらマズイんだよ」
「なんで!?」
「衣装は着る人のサイズに合わせて全部自作なんだと。だから誰か1人でも衣装着るの拒絶して衣装係の苦労水の泡にしたら男子全員連帯責任で半殺しにするって」
「…」
もう逃げる事さえ許されていない立場を知り、綾斗はガックリと項垂れる。
その哀れな姿に錦織も申し訳なさそうに手を合わせた。
「イヤ、本当ごめん。俺もかなり嫌だけどコレもう決定事項なんだ」
「…僕…眩暈起こしそう」
ポツリと呟く綾斗に錦織も「わかる」と相槌を打つ。
「俺も他の女装メンバーもメンバー入り決定した日はみんな顔面蒼白だったし」
「…そうなんだ」
独り言の様に呟く綾斗に錦織は「あとそれとね」と付け加える。
「女子に言われたんだけど、男子のコスチュームも誰が何の制服着るかも決まってるんだとさ」
「男子もメイド服着るんじゃないの?」
「それが違うんだよ。ヤローはメイド服以外の女装なんだ。しかも統一されてないんだよ。俺さっき衣装担当の子にその服見せて貰ったんだけど、キャビンアテンダントとか女性警官とか色々あったよ。ちなみに綾斗君のはコレね」
錦織は紙袋の中からゴソリと透明なビニール袋に包まれた服を取り出すとハイと綾斗に手渡す。
「………ナース服?」
「うん。ナース服。おっと」
ショックのあまりついに膝から力が抜けた綾斗の体をを錦織はとっさに支える。
「はい、フラついてる暇はないよー。嫌な事はチャチャっとやってチャチャっと忘れるのが一番だよー」
「いやだああぁぁぁぁ!」
廊下には錦織によってズルズルと更衣室へと引きずらてく綾斗の悲痛な叫び声が響いた。
最初のコメントを投稿しよう!