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そのろく。【猫崎、恭犬初登場話】
雲ひとつない青空の下、九重綾斗(ここのえあやと)は学校からの帰路についていた。他の学生で賑やかなその場の空気に溶け込まずどんよりとしたオーラを纏って。
綾斗は憂鬱気に溜息を吐く。
―――どこかにタイムマシンはないだろうか。
あるものならそれに乗って学園祭前日に戻りたい。
そして学園祭当日は何が何でも学校に行くなと自分に教えてやりたかった。
はァ、と綾斗の口から再び溜息が漏れる。
こんな思いをするのは、あの日だけだった筈なのに。
綾斗にとってナース姿に女装した。等という、忌々しい出来事は遠い過去のものだったのだ。
なのに、まさか現在進行形で恥の上塗りが続いてるとは。
(姉さん…、あの時の僕の写真売ってるとか…シャレになんないよ)
綾斗は虚ろ気な視線を空に漂わす。
姉の九重静華は学園祭当日、ナース服姿の弟の写真を撮りまくっていた。
それを売ってくれないかと云い出した友人の声を皮切りに、静華は校内で綾斗の写真販売を始めた。
綾斗はその事実を今日初めて聞いたのだ。
同学年の友人、奥園聖(おくぞのひじり)から「お前今まで知らなかったのか?」と云う言葉と共に。
学園祭の次の日から発売された写真の売れ行きは好調らしい。
「…どこに飛んでった僕のプライバシー」
姉に止めてくれと云えない自分が恨めしい。
云ったところで止める姉では無いだろう。
姉弟は親が他界してるため二人暮し。なので販売目的は生活費の足しだとすぐ様見当が付いたものだから尚更云えない。
(なんであんな恥さらしな僕の写真が売れるんだよコンチクショー)
綾斗は重い足取りで道を行く。
「オイ」
掛けられた声に、気だるげに顔を上げた。
その見知らぬ男の外見に一瞬ギョッとする。
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