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「特にウチの番長はお前さんのギャップにハマっちまって大層気に入ってるぜ?男相手にファンクラブまで設立しちまったくれェだからな」
「…その人に今すぐ解散しろとお伝え下さい」
猫崎は肩をすくめる。
「やなこった。続々会員募集中だ。第一、そんな事云ったら俺が殺されちまう。仲間でも容赦ねぇんだアイツ。…とりあえず」
猫崎は風呂上がりの写真をサインペンと共にテーブルの上に置いた。
「熱狂的なお前のファンの為にコレにサインしてくれ。『リキ君へ』って。ハートマーク付きが好ましいそーだ」
二度目の依頼をする猫崎に綾斗は顔に影を落とす。
「…拒否したら僕どうなるんですか?」
「ウチの番長鬼畜だからなー。断わったら死ぬな。俺もお前さんも。」
「………。あの、僕が持ってるサインペンで書いてもいいですか?」
「ああ、構わねー」
綾斗は無言でカバンの中をまさぐった。
*
次の日。
薄暗く荒れた某工業高の教室内で番長こと二年の恭犬リキは教卓に乗り、チュッパチャップスを頬張ったまま足をプラプラと遊ばせていた。
表情は笑顔だが目が座っている。
「環ぃー、さっきお前から受け取った俺の綾斗くんの写真なんだけどさー」
横で佇む猫崎に写真をピラピラと掲げる。
「なんで綾斗君の顔と体、塗り潰し状態なの?」
黒い油性の極太マジックペンで『九重綾斗。リキ君へ♡』と被写体に直接書かれていた。
もはや原形を留めていない。
そんな写真を前に猫崎は掌を額に乗せた。
「やられた」
「何?環も知らなかったの?」
「ああサテンの便所から戻った時に黒のケースに容れられて返されたからな。」
昨日猫崎が喫茶店のトイレから戻った際、写真を裏返しのまま突き返してきた綾斗を思い出す。
恭犬は肩をすくめた。
「じゃあ仕返しは次、直接会った時の楽しみにさせて貰おっかな」
「あいつも傍迷惑な奴に気に入られたもんだ」
可哀想に。
「環なんか云った?」
「なんでもねーよ」
綾斗の波瀾はまだまだ続きそうだ。
そのろく。終わり。
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