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「いーじゃん。僕なんかメイクされる前にみんなにめちゃくちゃ引かれたんだよ?てか最初から僕には似合わないとは分ってたけどさ。でも軽くショックだよ。しかも、その直後に僕までこの格好で校内にクラスの事アピールしに行けって言われちゃうし。
本当なら錦織君1人だけで行く筈だった訳でしょ?なのに僕も錦織君と一緒に行って来いだなんて言われるなんてさー」
言いながら綾斗はガクリと首を落とし続ける。
「それって僕がよっぽど変に仕上がったって事でしょ?こんな恰好でワザワザ人が集まるとこに行くなんて…あーヤダ。ホント行きたくない」
どんよりとした空気を身に纏った綾斗は、錦織に背を向け重い溜息を吐いた。
「そんなこと無いよ綾斗君!すっごい可愛いんだって」
「お世辞いらないよ錦織君」
(あーあ。病んじゃってるよ。みんなが思わず綾斗君に魅せられて場の空気が固まったの、ドン引きされたって勘違いしちゃってるよ)
分かってないなー。と錦織は思う。
予想以上に可愛くなり過ぎたからこそ、客足を入れるのに打って付けだという理由で大抜擢されたと云うのに。
でも今はその容姿について何を言っても耳を貸さないだろう。
反対に慰めてるとしか思わないに違いない。
うなだれる綾斗に錦織は称賛の言葉をかけるのは止めておくことにした。
その代りに綾斗の肩にポンと手を置く。
「俺は綾斗君と一緒に行けて嬉しいよ?」
「え?」
さりげない一言に綾斗は錦織を振り返った。
「だってさ、俺も腹括ったって云ったって、大勢の居る場所で『メイドとオカマに会いに来てね 』なんて大声で叫んで周りにシカトでもされてごらんよ?誰か仲間が側にいたらまだ救いになるけど、1人でそんな目にあったら俺どーしたらいいか解んないよ?てか一生のトラウマになっちゃうって」
その状況の錦織を想像した綾斗は思わずプッと噴き出す。その様子にホッと安堵し錦織は更に言葉を続けた。
「ね?俺助けると思って綾斗君も一緒に来てよ。お願いだから」
「あはっ分かったよ、僕も行くよ。それにいつまでもウダウダ言ってられないよね。僕も錦織くん見習って腹括るよ」
「よし!じゃ行こうか!」
「うん!」
綾斗の返事と共に廊下を歩き出した2人は人が集まるグラウンドへと向かう。
何かふっきれた2人の声は明るかった。
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