第12話 残暑

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その土産物の中に時々海外のものがある。帰省では無く海外旅行に行って来た人の土産だ。上司が気を使って「どうだった?」と訊くと、延々と土産話が続いている。 上司は『早く終わらないかなぁ』という曖昧な微笑みを浮かべているが、女性の部下には気を使い、我慢強く聞いている。 そんな光景が微笑ましくて面白い。1時間もすればいつものように、ピンと張り詰めた空気になり、アポ取りが始まる。ただ、8月は顧客側も不在の人が多く、全体的には少しノンビリした雰囲気にはなる。だから、明日香は8月は嫌いでは無かった。 昼休み、明日香が休憩エリアにいると、理恵が寄ってきた。 「明日香先輩のお土産、いつもさすがですねぇ」 明日香は、出社している人には『やまだいちの安倍川もち』を渡し、休んでいる人の机には日持ちのする『バリ勝男クン』を置いていた。 「みんな、バラ蒔き用、みえみえなのに、明日香先輩のお土産、いつもひと味違うので楽しみです」
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