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「ああ、それもまた今度」そう言って席を立った。
「まだ、デザート食べてるぅ」
「ああ、そうか」そう言って座ったものの、直ぐに「いや、じゃあ精算しておくから、理恵はゆっくりすればいい」と言って立ち上がった。
「あなたの分も食べちゃうよ」
「うん、構わないよ」
そう言ってチェックの方へ向かった。
理恵は、義男の後ろ姿を見ながら「ちょっとショックが大きかったかなぁ」と呟いた。ただ理恵は、明日香に対しては申し訳ないと思っていたが、義男に対しては、そうは思っていなかった。誘惑したのは確かに自分だが、誘惑に乗る方が悪い、つまり自業自得だと思っていた。『まずは自分の幸せを求めなきゃ』そう言い聞かせて、デザートをほおばり、コーヒーを口に含んだ。
「お客様、レシートとカードを・・・」義男が店を出ると、スタッフが慌てて追いかけてきた。
何も受け取らずに、そのまま、フラフラとチェックを離れたのだ。
義男の性格では、この時間なら電車で帰る。でも、今回は直ぐにでもへたり込みたかった。電車に乗って家にたどり着ける自信が無かった。
倒れ込むようにタクシーに乗り込んだ。住所を告げて座席に沈み込んだ。
御苑前を通過する辺りで、運転手が恐る恐る声を掛けてきた。
「お客様、大丈夫ですか?」
「え?」
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