第12話 残暑

13/15
前へ
/127ページ
次へ
「ああ、それもまた今度」そう言って席を立った。 「まだ、デザート食べてるぅ」 「ああ、そうか」そう言って座ったものの、直ぐに「いや、じゃあ精算しておくから、理恵はゆっくりすればいい」と言って立ち上がった。 「あなたの分も食べちゃうよ」 「うん、構わないよ」 そう言ってチェックの方へ向かった。 理恵は、義男の後ろ姿を見ながら「ちょっとショックが大きかったかなぁ」と呟いた。ただ理恵は、明日香に対しては申し訳ないと思っていたが、義男に対しては、そうは思っていなかった。誘惑したのは確かに自分だが、誘惑に乗る方が悪い、つまり自業自得だと思っていた。『まずは自分の幸せを求めなきゃ』そう言い聞かせて、デザートをほおばり、コーヒーを口に含んだ。 「お客様、レシートとカードを・・・」義男が店を出ると、スタッフが慌てて追いかけてきた。 何も受け取らずに、そのまま、フラフラとチェックを離れたのだ。 義男の性格では、この時間なら電車で帰る。でも、今回は直ぐにでもへたり込みたかった。電車に乗って家にたどり着ける自信が無かった。 倒れ込むようにタクシーに乗り込んだ。住所を告げて座席に沈み込んだ。 御苑前を通過する辺りで、運転手が恐る恐る声を掛けてきた。 「お客様、大丈夫ですか?」 「え?」
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加