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1.ミルク部
3階に来るのは、ほとんど初めてだった。
廊下の1番隅に喧騒から取り残されたような、小さな教室がある。
外から見た雰囲気では、空き教室というよりは倉庫とか資料室とかそういう類のものだろう。
その小さな教室のドアには紙が貼ってあった。
やけにきれいな字で『ミルク部』と書かれてある。
紙の下に、うっすら『音楽準備室Ⅱ』というプレートが透けて見えた。
「本当に『ミルク部』なんだ。ってゆーか、ミルク部ってなに?」
私がそう呟いた時。
「それじゃあ、我がミルク部とはなにか。説明しよう!」
背後から聞こえた声があまりにも不意打ちで、本当の意味で飛び上がった。
振り返ると男子が立っていて、なぜか男子は私の顔を見るなり目をまん丸くする。
それから、しばらく黙りこんだ。
えっ、なに?
訳がわからない私をよそに、その男子は目をキョロキョロと泳がせ、俯いたり、「あー、えーーーっと」とか言っている。
その姿を見て、男子に敵意がないのがなんとなくわかった。
先ほどの発言――「それじゃあ、我がミルク部とはなにか。説明しよう!」を聞く限り、ミルク部の部員なのだろう。
部員勧誘をして、ついでについでにナンパでもしようかな、と考えたけど振り返った自分が、地味でさえない女子だったから、ガッカリした。
きっとそうに違いない。
なんて失礼な。
私はそこまで考えて、勝手にイラッとする。
被害妄想だということは重々承知していた。
でも、貴重な放課後を――たとえ用事がなくても、いや、ヒトカラという立派な用事もあるし、家でスマホのゲームしたりアニメ観たりしてダラダラもしたい。
そんな時間を台無しにされたのだ。
これが八汐先生からの頼まれ事でなければ、こんなところには来なかった。
私が今すぐにダッシュで家へと走らないのは、先生が私のことを心配しているのを知っているから。
だから私は、こんな辺境の地へとわざわざやって来たのだ。
はあ、とため息を1つ。
この『ミルク部』に来ることになったのは、今日の昼休みまでさかのぼる。
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