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「知立は、確か部活に入っていないよな」
「……全スルー」
「電車通学や自転車通学で遠いところから通学している生徒はしかたないが、知立は徒歩だろ」
「そうですよ。歩いて学校まで15分くらいです」
「そうか。じゃあ尚更、部活に入ったほうがいいな」
先生は大きく頷いて、それから続ける。
「今日の放課後、3階の廊下の突き当りの教室を覗いてみてくれ。そこが『ミルク部』だそうだ」
「『ミルク部』? なんですかそれ? 私、別に牛乳はそんなに好きってわけじゃないですが」
「三階の階段のすぐそば、左手にある」
「調理室ではないんですね」
「ああ、うん。まあ、覗くだけ覗いてみてもいいんじゃないか、って話だ」
「えー。私、放課後はそれなりに忙しいんですよ。予定が色々と入ってますしー」
「……そうか」
先生は急に哀れむような目で私を見た。
「ちょっ! そんな目で見るのはやめてください! 予定が入ってるのも忙しいのも冗談です!」
「ああ、わかってる」
先生は真面目な顔で頷いて、「予定が入っている、が本当だったら俺は別に心配しないんだが」と小声で言った。
なんだか心配してくれることが申し訳ないような、そうやって私のことを真剣に考えてくれるのがうれしいような。
ちょっぴり複雑な気持ちになって、黙りこんでしまう。
「そういうわけで、用事はそれだけだ」
先生はそう言い終えると、机の上のカップラーメンにちらりと視線を向ける。
私は思わずこう聞いていた。
「カップラーメンだけなんですか、お昼」
「今日は弁当を忘れてな」
「そうなんですか」
弁当って、コンビニ弁当かなあ、でも忘れたってことは手作り弁当だよね。
先生が料理するのかなあ。
それとも彼女が……。
そこまで考えて、私は頭を左右にぷるぷると振った。
自分の胸が痛くなる妄想をする前にその場を立ち去ろうとする。
すると、先生に「知立」と呼ばれて立ち止まった。
「なんでしょう?」
「4年後、知立はすてきな大人になってるんじゃないか」
「えっ?」
「今のところその可能性は……50%くらいってとこか」
先生はそう言ってカップラーメンに視線を向けたまま、少しだけ笑った。
えっ? 今のもしかしてフォロー?
さっき私が適当にぼやいた『あと4年ぐらいしたらびっくりするくらいにきれいになりますよ』のフォローしてくれたの?
うれしいいいい。
だから先生大好きーーーー。
私はご機嫌で職員室を出て、廊下を歩きながらふと思い出す。
「可能性が50%、ってどういう意味だよ」
失礼な!
……なーんて、まあ、「可能性が50%」ってのも先生の照れ隠しの冗談で、先生は私のこと気にかけてくれてるんだよね。
そうじゃなきゃフォローなんかしてくれない。
こうしてお昼休みに呼び出して、自分のカップラーメン伸びるのもかまわずに私を相手にしてくれる。
それだけで、先生は私のことを気にかけてくれているのはよくわかるんだ。
部活を勧められたことは少し意外ではあったけれども。
しかもミルク部ときた。
ってゆーかミルク部ってなんだよ。
それでも、先生が私のことを心配してくれているのは伝わる。
たぶん、高校入学から一ヶ月でここまで心配される生徒も初めてなのかもしれない。
まあ、それもこれも自業自得ではあるんだけども。
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