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がらり、と一年一組の教室のドアを開けると、騒がしい音が耳に流れこんでくる。
一番前を陣取っている女子グループの1つがこちらを見た。
それから、ヒソヒソと何かを話し出す。
女子たちの表情からは、容易に悪意が読み取れる。
もう少し隠せばいいのになあ。
そんなことを思いながら、そのグループの近くを通ると、一人の女子がぽつりと呟く。
「まーた先生に泣きついたんだ?」
それに続いて別の女子も口を開く。
「ほら、知立って八汐好きじゃん。趣味悪いよねー」
「かわいくないからって、おっさんに走るだなんて、かわいそー」
クスクスという笑い声。
聞こえるように放たれた悪口。
私に向けられた、まっすぐな悪意。
……だからなんだというんだ。
正直、悪口を言われようがかまわない。
お昼休みにぼっちでもかまわない。
私はクラスメイトのことなんて――特に悪口を言ってくる奴らに好かれようだなんて思わない。
どうぞ、何でも言っていてくれ。
私が何よりも傷つくのは、八汐先生から見放されたり、嫌われたりしてしまうことだ。
ただそれだけ。
ああ、あと家族がいなくなったり、猫たちが元気じゃなくなったり、家でゴロゴロできなくなったり。
そういうことができなくならないなら、それでいい。
無理にこんなクラスで、友だちをつくる必要なんかないんだ。
私は自分の席につき、カフェオレのパックにストローを勢いよく刺す。
今日のお昼は母の特製弁当。おにぎりはしっとりで。メインはミニハンバーグ(昨夜のハンバーグのタネの余り)
「ぼっち飯で虚しくなんないのかなー」
まだ楽しそうに悪口を言っている女子たち、奴らは明井歩乃率いるグループだ。
窓際の私にこの悪口が聞こえてくるんだから、当然、他の女子にも聞こえている。
他の女子は、<あの日>以来、私に関わろうとしない。
それはしょうがないし、予想できたことだ。
でも、こんなふうに悪口を言っていることで、クラスの男子へのイメージが悪くなる、とかは思わないんだろうか。
私はあいつらが言っていたように、おじさん好きだからクラスの男子のイメージもなにも興味がないわけだけど。
お前らは同級生くらいの年齢の男子に興味があるんでしょ。
お気に入りの男子が、一人の女子にネチネチ悪口を言っているのを聞いて『あの子、性格いいな』とか思うか?
いや、思わないだろう。
まあ、私だって別に性格がいいわけでもないし、むしろ面倒くさい奴だという自覚はある。
あの時、あんなふうにでしゃばるんじゃなかった。
もっとうまいやりかたで、解決するべきだったんだ。
そう思うほどには、私は自分が感情的になってしまう自覚がある。
ちらりと、教室の真ん中の列の一番前の席に視線を向けた。
空っぽの席がそこにはある。
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