1.ミルク部

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 そんなわけで、いつも通りのぼっちな学校生活を終えたのだ。  今日は八汐先生と会話ができるという、うれしいハプニングがあった。  この浮かれた気持ちのままで、いつもの店でヒトカラをしてストレス発散したい。  だけど、先生がせっかく勧めてくれた『ミルク部』とやらにも一応、顔だけは出してみよう。  そう思って来てみたら、目の前の男子は私の顔を見てあからさまに動揺して(失礼だ)いる。  散々、おろおろしてから、男子はこほん、とわざとらしい咳払い。  それから背筋をピンと伸ばし、にこりと微笑んだ。 「はじめまして。2年1組の高原潮(たかはらうしお)です」 「……私は1年1組の知立春香(ちりゅうはるか)です。はじめまして」  つられて自己紹介をしてしまったけども、私はこの人と関わるつもりはない。  というか、『ミルク部』とかいう謎の部活に入部するつもりはないのだ。 「ここにいたってことは、入部……いや、見学かな? それとも吹奏楽部の人かな」 「いいえ、」  私はそこで言葉を切り、どう答えようかと悩んだ。 「ああ、じゃあ、見ていくだけ見ていって」  私があまりにも悩んでいるのがわかったのだろう。  高原先輩は穏やかにこう付け加える。 「帰りたくなったらいつもで帰っていいからさ」  そう言い終えると、先輩は音楽準備室の鍵を開け始める。  正直、余計に帰りにくくなった。  この様子だと、部員はとても少ないのだろう。  そうなると新入部員の獲得に必死なはずだ。  だけど、高原先輩からはそういうガツガツした雰囲気は感じない。  穏やかだけど、どこかあきらめているような、悲しそうな顔をしている。  ここで私が、「じゃあ、帰りまーす」と言っても先輩は引き止めたり責めたりはしないだろう。  でも、こんなふうに寂しそうだとむしろ立ち去りにくい。  そういう作戦か?  そうして立ち去りにくくして、入部までもっていこうとしているとか?  私が考えこんでいると、部屋のドアが開き、「どうぞ」と先輩が先に中に入れてくれた。  部屋に一歩足を踏み入れると、やけに埃っぽい。
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