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ヒトカラで2時間ほど歌ってから、家に帰った。
家に帰るなり、私は自室にこもった。
部屋着に着替えると勉強机の上のパソコンを立ち上げる。
私は無意識のうちにネットの地図を開く。
画面に映し出されていたのは、実際の写真で住宅街の景色。
少し道を進めば、畑と田んぼの広がるのどかな景色。
さらに進むと、冬には霜柱を踏みつけた小さな丘のあるT字路。
このT字路の突き当りにあるクリーニング屋さんが開いているのは見たことがない。
そこからさらに進み、左に曲がって、先を進めば、左手に見えてくるのは小学校。
「懐かしいなあ」
そう呟いて画面の中の景色をしばらく眺める。
この小学校は、栃木ではない。
愛知の私が通っていた小学校だ。
小学校6年生まで愛知の小学校で、父の仕事の都合で栃木の那須に引っ越してきた。
私もまあまあ田舎で育ったと思ったけれど。
那須のほうがさらに上をいく田舎度合いだった。
こっちは見渡す限りの田園風景に、壮大な山が間近にある。
別に田舎なのはしょうがないことだ。
だけど、私が未練がましく愛知の景色を見てしまうのは、地元愛が強いというわけではない。
そもそも別に小学校はすごく楽しかったわけでもなかったから。
ただ、栃木に来てから、つまり中学3年間の記憶がほぼないのだ。
大まかに覚えてはいるものの細かいことは覚えていない。
それは私が中学は暗黒時代だったと自覚していたからだ。
端的に言えば、中学もぼっちだった。
そして、高校も中学と同じように暗黒時代というぼっちの生活が始まる。
今日、高原先輩が『なまっていない』と言ったのは、それは当然だ。
だってこっちで私は友だちができていないのだから。
喋る相手がいなければ、栃木弁だってなまりだってうつらない。
それに別に私は栃木に染まるつもりはないのだ。
高校を卒業したら、絶対に栃木を出る。
大学は埼玉か、できれば東京のほうへ行きたい。
関東で働いて、それから愛知に戻る、というプランを脳内で立てている。
とにかく栃木で腰を落ち着けるつもりも、ましてや骨をうずめるつもりもないのだ。
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