君の所へ

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 白く曇った窓の外には薄ぼけた街が見える。指で軽く擦ると、ぼやけていた景色ははっきりとその姿を現した。街は薄らと白い雪に覆われている。 「道理で寒いわけだ……」  まだ重たい瞼を擦り、大きくあくびをする。冬はどうしても寝起きが悪くなってしまう。昔はそんなことはなかったのだが……。  僕はすっきりしない頭をどうにかするために洗面所へ向かう。手を伸ばし、蛇口を捻る。溢れ出た水は刺すように冷たい。両手で掬った水をバシャバシャと顔に浴びせ、ようやく頭が冴えてきた。 「はぁ……」  鏡を見て溜息をこぼす。水滴のついている鏡には黒髪の覇気のない目をした男が映っている。  冷えた手で蛇口に触れ、先程とは逆の向きへ捻る。勢い良く出ていた水は止まり、残った水は穴の中に消えていった。  僕はタオルを手に取り、顔についた雫をふきとる。そして準備を整え、外に出ようとドアノブに手をかけた所でふと気がつく。 「しまった……マフラーを忘れていた」  僕は急いで引き返し、ソファの上に置いてある紺色のマフラーを首に巻く。今日日これを忘れては寒さを乗り切れないだろう。例え街にいるのはほんの一瞬だとしてもだ。  いつも通りの変わり映えしない朝。それなのに何処か気が漫ろなのは一体どうしてなのだろうか。  ドアを押し開け外に出ると冷たい風が抜けていった。思わず身震いをする。首に手をかけ口元を覆うようにマフラーを引き上げる。去年も使っていたはずなのに何故だか温もりが足りないように思うのは何故だろう。
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