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「やあやあ、そんな湿気た面してどうしたんだい?」
顔を上げるとあどけない顔をした少年が立っていた。口調も芝居が掛かったような胡散臭い話し方だ。
「……誰だ?」
「俺が誰だっていいでしょ? それよりお兄さん、バスに乗るの?」
「え、バス……?」
少年の後ろを見ると街で見るバスよりは小さめのものが止めてあった。見た感じ乗客はいなさそうだ。
「うん、何処でも行けるバスだよ」
「は……?」
「遠い海でも高い山でも、果てはあの空までも行けちゃうバス!」
にんまりと笑った少年はじっと僕の目を見つめてくる。彼の目は赤く不気味で……とても引き込まれる。
「本当に何処でも行けるなら……彼女の所に行きたいな」
何気なく発した言葉に少年は、にっと歯を見せて笑う。僕の心に迷いは無かった。
「それじゃ、お兄さんの言う通り連れて行ってあげるね!」
少年は僕の手を引いてバスに乗せる。程なくしてバスは走り始めた。真っ直ぐに、真っ直ぐに走り続けていった。
――道の無い崖へと。
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