ぼくのあまい1日。

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 ド天然な委員長に何処へ何のために行くのか思い出せるようエールを送ってから、2人で廊下を歩き出す。 __らしくない。  副委員長はそう思った。  理事長室なんて、今まで仕事で委員長と何回か入ったことがあるじゃないか。なのに、緊張している。  その原因は中等部の頃から憧れている、隣にいる先輩のせいだ。  (2人っきりになるなんて初めて…)  委員長に惚れた何処ぞの俺様会長と、学年が違うということのせいでなかなか会うことが出来ない憧れの先輩。  こんなシチュエーション、初めてだ。  なんとか正常心に戻り、残り少ない目的地までの距離で会話を沢山したい、と副委員長が深呼吸をした。  「すぅーーふぅー……」  「緊張、しているんですか?」  「えっ、?」  ぴく、と副会長が反応する。   今の "えっ、?" っていつもの声じゃ、なかった。  少なくとも副会長の知っている限り、別の組織の自分と同じ立場にあたるこの後輩が、今のような低い声を出すのを聞いたことがない。  「う、うん!いつもは天然委員長と一緒だから気が抜けるんだけど、今日はちょっと緊張しちゃうナー」  慌てて出た言葉。  違う。委員長と一緒じゃないから緊張しないんじゃなくて、副会長と一緒だから緊張するんだ。  (……ぇ?)   ふと、頭に感触が。  予想通り、ふわふわですね、なんて副会長は思っているが、されている方は心臓が爆発しそうなくらいの驚きと胸の鼓動。  「弟が緊張が解れるから頭を撫でてって言ってくるのでと言ってくるので効果あるのかと思ったんですが、どうですか?」  ふわりと微笑む副会長に副委員長は真っ赤になる。顔を隠したくて俯いてた。  それでも、副会長は頭を撫で続けてくれた。  (そんな笑顔、見たことない)  何処か他人と1歩線を引いていて、感情的にならず、自分とは違う、口角だけ上がっているような笑顔を貼り付けている副会長が、自分に初めて微笑んだ。  __嬉しい。そんな言葉じゃ足りないけど今はそれしか思いつかない。  「副会長サン、ありがとー」  「いえ。貴方はまだ2年生なのですし、もう少し先輩にわがままになっても良いんですよ」  「じゃあ副会長サン「名前」へ?」  「そろそろ、名前で呼んで下さってもいいんじゃないですか?」  ぴし、と副委員長は固まる。  " じゃあ副会長サンが甘やかして下さいよ " と続くはずだった言葉はもう出てこない。  (、、ずるい。だから、)  これはほんの少しの仕返し。  わざと目を合わせ、今まで自分の中で抑えていた感情を外に出す。  「じゃあ… " フーマ先輩 " って呼ぶねー」  「…ッ! な、なんですか、サクヤ。」  「!」  副委員長は胸がきゅっと締まるのを感じた。名前を呼ばれてから、なんか変だ。  (これは、" 憧れ " なんだよ…な…?)  副委員長が恋愛感情を知るまで、もう少し。  そして、生徒会室で役員達と一緒にいて感じている暖かさとは、別の暖かさを副委員長といると感じる、ということを、副会長が自覚するまであと、もう少し、かもしれない。
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