ぼくのあまい1日。

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 「着いたよ、フーマ先輩ー」  「ええ。甥っ子の方はもう来ているのでしょうか?」  「ううん、委員長が2人の到着は同時刻だって言ってたよー」  少しだけ甘くて、それでもどちらも自分の気持ちに気づいていないから少し酸っぱい。  そんな雰囲気を互いに感じ取りながらも、2人は長い長い廊下の果て、大きな扉の前にやって来た。  「サクヤ。まだ緊張していますか?」  「…? あ、もうダイジョーブ!」  副委員長は、別に理事長室に入ることに対して緊張していたわけじゃない。  互いに名前で呼び合うことで、すっかり緊張は解れていた為、一体何故副会長がこのタイミングで緊張しているかを聞いてきたのか、一瞬分からなかった。  「クス、じゃあ入りましょうか」  「う、うん!」  また、笑った。  副委員長はニヤける顔を必死に真顔にしながら副会長の後に続いた。  「失礼致します。3年S組蘋楓真と2年S組片倉咲也です。転校生の件で伺いました」  「お早う御座います。蘋様、サクヤ」  「げ、遥香…」  ポットとティーカップが3つ乗ったトレーを片手に微笑む目の青い男性。歳は27、8くらいだったはずだ。  理事長の秘書こと片倉 遥香 (かたくら はるか)  頭の回転が早く、分刻みで理事長のスケジュールを管理し、いつでも笑顔で接してくれる優しい人。だが彼は元ヤンなので、時々口が悪くなる。そのせいで弟も心の中では口が悪いのだろうか。  そう彼は、副委員長こと片倉 咲也の兄である。  「げってんだよ――ごほん、お久しぶりですねサクヤ。副委員長としてのお務めご苦労様です。理事長はもう少しでいらっしゃいますからお二人共どうぞお座り頂いて少々お待ち下さい。あ、良かったら紅茶でも淹れましょうか?紅茶を淹れるのは得意な方ですのでお口に合うと思うのですけれど」  ついでた喧嘩口調を隠したかったのか、ノンブレスでそう言いきった遥香に、2人は少し引き気味に返事をし、ソファーに座った。  遥香は座った2人の前にティーカップを2つ並べると、ポットを傾け紅茶を注いだ。  「これ…。オレンジティーですか?」  「分かります?流石副会長ですね」  「いえ、後輩がよく淹れてくれるものですから」  まるで自分の子を自慢するように副会長は優しい微笑みでそう言った。  だが心の中では、いくら想い人の好ましいものだからって会計の淹れるオレンジティー率が高いような気がするので、たまにはココアを淹れてくれてもいいじゃないかと思っていた。  「もしかして後輩自慢かい?私も参加させて貰おうじゃないか」  「…理事長。3分オーバーですよ、早くお席へお座り下さい」  「はは、私の後輩は時間に厳しいようだ」  「…後輩じゃなくて部下ですよ」   理事長。学園のトップ。  銀色の髪の毛はまるで輝いて見える。確か歳は40代前半だっただろうか。少しタレ目の甘いマスクで、笑うととても40代前半には見えない。  余談だが、理事長と秘書は共にこの学園の卒業生らしいので世代は違えど先輩・後輩関係なのもあながち間違いではない。  並びに学園在学中の副会長・副委員長の先輩とも言えるのだ。  「お早う御座います、理事長」  「おはようございまあす。あ、理事長もしかして髪切りました?」  「ああ。サクヤくんよく気づいたね」  「へへっ」  「ちょ、サクヤ、理事長相手にそんなフレンドリーな…」  「はは、いいんだよフウマくん。ところで、今日の件についてだけど……」
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