ぼくのあまい1日。

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 副会長と副委員長を乗せた車が校門の前で止まる。  この学園は第一校門と第二校門があり、外部から人が来る場合、第一校門まで車で行き、そこで待つことが決められている。  外部から来た人は車で第二校門まで行き、警備員による手厳しい検査を行ってから、第一校門まで歩いて行くことになっている。  因みに、第一校門が校舎に近い方で第二校門が学園外に近い方である。  副会長と副委員長が車から降りると、丁度校門の向こうから声がした。  少し待たせてしまったかも、と副会長が副委員長に耳打ちし、少し急ぐよう指示をする。  「サクヤ。理事長との打ち合わせで話した通りでお願い致しますね」  「もちろん。ヘマなんかしたら委員長に3時間正座の刑だよー」  甘酸っぱい雰囲気はもう、ない。  完全に仕事モードに入った2人は、互いに会話をすることも無く、少し先からやってくる転校生をじっと待つ。  段々姿がはっきりしてきた転校生を見て、副会長は目を細め、副委員長は吹き出すのを堪えた。  自分たちの目に写っているのは、もじゃもじゃとした重たそうな髪を頭に乗せ、分厚いレンズの入った眼鏡をかけている、背の低い男だった。  もう1人はもじゃもじゃとした髪の毛は無いものの、分厚いレンズの入った眼鏡をかけるこちらも背の低い男だった。  副会長と副委員長の目には眼鏡のみをかけている方の口がのそのそと動いているのが見えた。  __「チッ、うっせえなあ、 " 王道転校生 " 。 俺はここに萌を求めに来ただけっつーのに最初から巻き込まれんのかよ」  幸い誰にも聞かれることは無かったが、口の悪いこの男こそ、例の転校生こと一般庶民の転校生である。  「香奈!香奈!あそこにいるのが叔父さんの言ってた迎えの人か!?」  「あ―、そうなんじゃないかな?」  (腹黒副会長_!…ともう1人の誰だ?)  「じゃあ速く行こうぜ!香奈!」  「うんうんそだねー、蒼桜クン」  (蒼桜って呼ぶ度虫唾が走る)  バタバタと騒がしく、副会長と副委員長に近づいてくる転校生達。  そんな彼らを見て、副会長は第一校門を開けた。理事長から借りている、校門を開けるパスみたいなものでロックを解除すれば自動で開く。  「初めまして、貴方達が転校生ですね。私生徒会副会長を務めさせております、蘋楓真と申します」  「僕は風紀委員会副委員長の笹倉咲也だよー。じゃあ取り敢えず2人の名前を確認するねー」  営業スマイルを解き放つ2人に対し、眼鏡のみをかけている方の転校生は心の中で叫んだ。  (非王道でも大歓迎!!美味い!!!なるほどな、副委員長が迎えに来る時代来てもいいよな?いいよな?あ"?つか2人で来るって何それ、かわi)  心の中がうるさい。  「俺の名前は有栖川 蒼桜だぜ!宜しくな、フウマ、サクヤ!!」  有栖川 蒼桜 (ありすがわ あお)  まるで御伽噺に出てくる様な名前だ。  「あ、俺は笹原 香奈…です。わざわざ有難う…ございます」  笹原 香奈 (ささはら かな)  こちらもなかなか名前が女の子らしい。  「ウンウンよろしくねー。じゃあ一般庶民の笹原クンは僕と一緒に来てくれるかなー?」  「サクヤ、もう少し言い方を考えて下さい」  「はあい。じゃ、またねーフーマ先輩ー」  「ええ。また今度」  副委員長は副会長に手を振ってから、歩き出し、転校生が着いてくるのを確認してから、少し歩みを速めた。
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