九条紗織の手帳には

episode.1

ホントにそんな理由かどうかは分からないけど、そういう話が広まってるってだけで、ある程度の抑止力にはなる。
私も、そんなリスクを負ってまで、悪いことしようと思う気にならない。
ていうか、そもそも、私たち銀行員は、お客様からお預かりしたお金、例えば100万円の束が一つ目の前にあったとしても、ホント、お客様には申し訳ないけど、その塊は“お金”じゃなくて、単なる“モノ”。
“ヒャクマンエン”という名前のついたただの“カタマリ”。
だから意外とぞんざいに扱うし、鞄の中に大金を入れて運んでいるという自覚は、あまり無い。
むしろこれがマトモに“お金”に見えてしまうと、ヤバい兆候なのかもしれないと思ってる。
もちろん、これが自分の財布の中にあるお金だったら、それは、例え千円札一枚だけだとしても、これは間違いなく“お金”。

同じ“紙幣”ではあるものの、気持ちの中では、まったく別のものだと思ってる。
てか、そう思えてないとダメだと、私は気をつけてる。