プロローグ

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今日は、週の真ん中水曜日。 月曜から始まった私の鍵当番もようやく折り返し。 なんとか今朝も無事電車に乗れた。 あ、鍵当番にも一ついいことがある。 30分早いお陰で、住んでいるマンション最寄駅で乗り込んでも、まだ座れるのだ。 ここから電車で25分。 いつもなら、マンションの最寄駅から職場の最寄り駅までずっと立ってるので、座れるのは純粋に嬉しい。 あとは、うっかり寝過ごしてしまわないように、少し気を張って…。 鍵当番は、その名の通り、早く出勤して鍵を開ける当番。 一応毎朝管理職が職員通用口の鍵を開けて、室内の空調や各種の端末や機械を立ち上げて、正常に動作するかを始業前に確認しておくことになっている。 それともう一つ。 毎朝8時には、外部委託している清掃業者のおばちゃんがやって来るのだ。 営業開始前に室内外の掃除を終わらすには、逆算したらこの時間には掃除を始めないと間に合わないので、仕方ない。 私が鍵を開けるとの同時に、通用口前で待っていたおばちゃんも中に入り、手際よくオフィスの掃除を始めた。 おばちゃんは社外の人なので、鍵当番の管理職には、その作業立ち会いという役割もある。 勿論、その役割は有名無実化しているのだけど。 何しろ“我が社”にとって重要なものは全て“金庫室”の中にしまってある。 この“金庫室”は、もう一人の管理職が出勤して、管理職二人にならないと開けられないルールになっている。 管理職が二人になって初めて、まず金庫室の鍵が格納されている、室内備え付けの“金庫”を開けて鍵を取り出す。 そしてその鍵でようやく“金庫室”の扉を開けると、さらにもう一つ扉があって…。 って、マトリョーシカか。 もちろんその“金庫室の開け方”はあくまで我が社が定めた運用上の“ルール”なので、やろうと思えば私一人でも“金庫”も“金庫室”も開けられることは開けられるんだけど、24時間稼働中の警備会社さんの監視カメラもあるし、そもそもそんなリスク犯してクビになんてなりたくない。 「ふぁ〜ぁ」 すべての機器の電源を立ち上げて作動確認し、自席に座った私は、大きな欠伸を一つ。 朝駅前の自販機で買ったブラックの缶コーヒーのプルタブを開け、新聞を広げると、同僚が来るまではおばちゃんの掃除の終わるのをここでぼーっと待つだけ。 同僚が出勤してくるのは8時25分ごろから。 私が勤め始めた頃は、正社員は8時までに出勤するのが当たり前だったけど、時代は変わった。 昔は、我が業界、大学生の就きたい職業でトップ五指の常連だったはずなのに、いまや『AI化が進めば淘汰される職業No. 1』 そう。 若い子に言いたいのは、これからのご時世、銀行員なんて、なるもんじゃない。
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