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episode.1
「じゃあ、そういうことで。俺も残りも僅かだけど、最後までよろしく。
じゃあ今日も頑張ろう」
隣の席の末恒代理がそう言って立ち上がったのを合図に、私は手帳をパタッと音を立てて閉じる。
そして企業渉外係の朝のミーティング中は皆の顔が見えるように閉じていた、目の前のノートパソコンを開いた。
パソコンのモニターには、昨夜社内メールで支店長から転送されてきた異動の内示書が表示されている。
私はそれを見ながら、こっそり小さなため息をついた。
昨日の夕方、末恒代理に異動の内示が出たのだ。
ごきげん銀行の異動は毎月一日付けで、その内示は前の月の25日を目処に発表される。
そして、その一日付けの異動の期限は、原則その月の5営業日以内に新任地に赴任しないといけないことになっている。ほぼ10日以内に転勤しなきゃいけないのだ。
なんでこんなに急なのかというと、私が若い頃に先輩に聞かされた理由としては、お金を扱う仕事の銀行員の不正の牽制のため、という理由。
行員の転勤時期の目安は、一つの勤務先の勤務年数がだいたい3年前後のため、ある程度予想はできるけど、ぴったり3年という訳でもない。
長けりゃ5年を超える人もいるし、早ければ2年も経たずに移動する人もいる。
いつ異動させられるか分からないので、悪いことするタイミングを与えないようにしているということらしい。あと、お客様と不必要に親しくなってしまわないように、と言う意味もある。
そして、もし仮に悪いことしてた場合、内示から10日程度で次の勤務先に赴任しないといけないので、不正を隠す余裕も与えない。
異動が早いのは、そんな意味もあるみたい。
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