「お邪魔します」

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暗雲が日光を遮る。 光の届かないこの部屋は暗く不気味で、どこかの隙間から入り込んだ風が役目のないカーテンを茶化すように揺らす。 台所の蛇口から規則的に落ちていく水滴と同じ間隔で壁にかかった時計の針が動く。 気づけば、二時を回っていた。 皿に残ったカレーのルーを無意味にかき混ぜる。 やっぱりカレーなんて食うんじゃなかったな。 作り置きしていたカレーのことを思い出し、急いで戻ってきたが、午後からの企画会議にはもう間に合いそうにない。 優秀な人間を目指していたわけじゃないけど、それでも今まで遅刻がなかっただけに、少しくるものがある。 携帯で会社への連絡は済ましたが、怒られるとわかっている場所に戻ろうとは思わない。 騙し騙しやってきたけれど、そろそろ限界が来たのだろう。 もう辞めてしまいたい。 口から弱々しい吐息が漏れる。 強引に納得しようとするが、思い出が頭を過る。 いくつもの場所を転々と周りながら、ようやく見つけたあの職場。 みんな良い人だったし、仕事にも慣れてきた。 辞めたくないなあ。 ふとある言葉を思い出す。 頭の片隅にあった、その言葉は私の心を妙に安心させた。 大事なのは失敗した後だ、転んだ後にどう起き上がるかなんだ。 目線をあげる。 偶然にも雲の隙間から微かな光が差して、私の頬を優しく撫でる。 …戻ろう。 椅子にかけていた上着を羽織り、緩めていたネクタイを締める。 テーブルに広げていた皿やコップを簡単に片づけて洗面台へ向かう。 『ぎぃい』 廊下を通ると足元から嫌な音がした。 老朽化が原因だろう、今は気にしていられない。 開き戸を開き、洗面台の蛇口を捻り、ありったけの冷水を顔にあびる。 たるんでいた顔は徐々に引き締まっていく。 まずは謝ろう。色々考えるのはそのあとだ。 水を止め、かけてあったタオルで濡れた顔を拭く。 その時。
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