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川口が人混みに消えるのを見送って、構内から人が多い広場に出る。
一人になると余計に人の騒めきが鮮明になって、しずくは耳を塞ぎたくなった。
──気持ち悪い。
しばらく歩いた所で限界がきて、広場のベンチに腰掛けた。
相変わらず目の前を慌ただしく行き交う人から逃げたくなってしずくは掌で顔を覆う。
──宗一郎さんとの生活が、終わる。
先程の川口が言った言葉を思い出す。
今のしずくは“星彩をさがして”に集中するために他の仕事は断ってもらっている。
次の仕事の話をするのは担当として、当たり前の事だろう。
そしてしずくも、プロとしてやっている以上本当は次の仕事を早く決めなくてはいけない筈だ。
──でも…
この仕事が終わったらしずくはどうなってしまうのだろう。
たった二日離れただけでこんなにも心が乱れているのに、本当に以前の生活に戻れるのだろうか。
──宗一郎はしずくが居なくなっても、きっと大丈夫だ。
きっと優しい宗一郎は、次の仕事の相手にも温かい手を差し伸べる。
──嫌だ…
不意に込み上げた衝動にしずくは立ち上がり、そのまま勢いに任せて歩き出す。
帰ろう──
通りに出たところで車のライトが目に入り、鼓動が早くなる。
「…っ!」
しずくは竦む足を無理矢理動かして逃げるように駆け出し、マンションへ向かう。
「は…っ、はぁ…」
宗一郎のマンションが見えたところでしずくは足を止めた。走ってきたからなのか恐怖のためなのか分からない呼吸の苦しさに、喉に手をやる。
──駄目だ。ここに宗一郎さんはいない…
しずくは踵を返し、自分のマンションへ向かった。
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