#12

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──久しぶりに帰ってきた部屋は、少し埃っぽい。 だけど今のしずくにはそんな事を気にする余裕は無かった。 「は…っ、けほ…っ」 乱れた息を整えようとして少し噎せてしまう。 滲んだ視界に、真っ暗な部屋が広がる。 自分が宗一郎に依存していることにはずっと気付いていた。弱い自分を優しく包んでくれる彼に、溺れている。 宗一郎が傍に居ないときっとしずくは駄目になってしまうのだろう。 ──でも、それだけじゃない。 彼が他の誰かに手を伸ばすところは、見たくない。 自分じゃない誰かに宗一郎が優しく触れる──。 想像すると以前も感じた澱が、しずくの心を蝕んでいく。 ──自分だけを見ていて欲しい。 この気持ちは──。 外は夜になっても春の暖かさを残している筈なのに、この部屋は寒くて仕方なかった。 しずくはすっかり冷たくなった身体を自分の手で抱きしめる。 「…うそだ…」 震える唇で呟いた声は、誰に届くことも無く暗闇に溶けていった。 体から力が抜けて床に座り込む。 ──好きになってしまった。 今まで恋なんてしたことがなかったから、気が付かなかった。 でもこの気持ちは恋と呼ぶにはあまりにも── 重くて、暗い── 宗一郎には告げられない。 依存と恋心が綯い交ぜになったこんな気持ちは、きっと優しい彼を押し潰してしまう──。 「…たすけて」 どうすることも出来なくて、しずくは耳を塞いだ。 ──耐えられない。 しずくの意識は、そこで途絶えた。
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