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「…さぁ、早く掃除して暗くなる前に帰ろう」
「…はい!」
しずくは頷いて宗一郎に雑巾を渡した。
受け取った宗一郎が絵の傍にしゃがみ、そっと汚れを拭う。
「…ちゃんと落ちそうだな」
「良かったです」
しずくも汚れを拭い始めたところで、右手に違和感を感じて手を止めた。
「…?」
「…どうした?」
宗一郎が顔を上げて不思議そうにしずくを見る。
「…いえ、何でもないです」
「…」
掃除を再開しようとした手を宗一郎が優しく掴んだ。
「ぃ…っ」
柔らかく掴まれた筈なのに、響いた鋭い痛みに思わずびくりとした。
「…痛いのか」
「…っ、少し」
咄嗟に隠そうとしたが宗一郎には気付かれてしまったようで、素直に頷く。
「でも、すぐに治ると思います。早く拭いてしまいましょ…」
「…帰りに病院に寄るぞ」
「ぁ…」
有無を言わさない様子の宗一郎に雑巾を奪われ、しずくは情けない気持ちで俯いた。
「すみません…」
「…怒ってないから、そんな顔するな」
「…はい」
苦笑しながら頭を撫でる宗一郎にしずくは頷いた。余程情けない顔をしていたんだろう。
──ほんとダメだな…
それから宗一郎が残りの汚れを拭いて、掃除が終わったところでしずくのマンションを後にした。フローリングの汚れは綺麗に落ちたようでとりあえず一安心だ。
「本当にありがとうございました…」
「気にしなくていい。…次は病院だな」
宗一郎に連れて行かれるがまま帰りに病院へ寄り、一日ぶりに彼のマンションへ向かった。
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