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宗一郎の部屋にはたった一日帰らなかっただけなのに、ひどく久しぶりな気がしてしずくはほっと息をついた。
幸いしずくの手は少し痛めただけで大きな怪我ではなかった。
しかし無理をした事には変わりなく、病院では湿布と固定の為に包帯を巻かれ十日間の安静を言い渡された。
「宗一郎さん、これ…」
「あぁ、帰ったら君が居なくて、急いで家を出たから」
リビングに入ったところに無造作に荷物や紙袋が放り出されていて、彼が本当に急いで出掛けてくれたのが分かった。
「…でも、どうして帰りが予定より早くなったんですか?」
「…川口さんから君の様子がおかしいと連絡があった」
「川口さんが…」
しずくなりに頑張って誤魔化せたと思っていたが、やはり気付かれてしまっていたようだ。
今度会った時にきちんと謝らないと…
「それで君に連絡したんだが、何度かけても繋がらなかった」
「あ…」
存在を忘れかけていたスマートフォンを取り出すが、充電が切れてしまったようで画面は真っ暗だ。
「すみません…」
「…いや、君が無事ならそれで良い」
微笑んだ宗一郎が荷物を片付け始める。
鞄を持ってリビングを出ようとした宗一郎の袖をしずくは包帯の巻かれていない方の手で引いた。
「本当に、すみませんでした。…迎えに来てくれて嬉しかったです。…ありがとうございました」
信じられない程迷惑をかけてしまった情けなさと嬉しさがごちゃごちゃになったまま、しずくは宗一郎に微笑んだ。
「…もう黙って居なくなったりするなよ」
「はい…っ」
鞄を置いた宗一郎に優しく抱き寄せられ、しずくは頷いた。
「…あ」
「ん?」
ふと目に入った宗一郎のシャツの汚れに、二人とも黒く汚れていた事を思い出した。
宗一郎も気が付いたようで、苦笑してしずくの服を見る。
「先に風呂だな」
「はい」
改めて互いの姿を見れば見事に黒が散っていて、少し笑ってしまった。
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