#13

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「嫌なら君が眠るまで一緒にいよう」 「…一緒に、寝たいです」 宗一郎はまだ不安定なしずくを心配しているのだろう。しずくが自分からは言い出せない事を見越して、先回りして誘ってくれた。 その気持ちが嬉しくて、笑顔で頷く。 「…その前に、お土産」 「あぁ、そうだったな」 今朝眠りにつく前の約束を持ち出せば宗一郎は微笑んで頷いた。 名残惜しい気持ちで宗一郎から離れ、隣に腰かける。 「…宗一郎さんのご実家って、近いんですか?」 二人でお土産を食べていたが、しずくはふと気になって隣の宗一郎を見上げた。 「ここから車で二時間半程だ」 「そうなんですか…」 幼い頃宗一郎と会っていた自分はその街に行ったことがあるかもしれない。 話を聞けば海沿いの街のようで、しずくは今は思い出せない広い空と大きな海を思い浮かべた。 ──宗一郎さんが育った街を見てみたい。 「…いつか、行ってみたいです」 「海か?」 「はい、…難しいかもしれませんけど」 海には事故にあってから一度も行っていない。海だけではなく、今まで殆ど外の世界を見たいとは思わなかった。 極力移動を控える生活は、自分で自分を閉じ込める安全な檻のようなものだ。そこに居れば苦しいことも辛いことも無い。 しずくは初めて、その檻がどうしようも無く煩わしく思えた。 「…いつか、一緒に行こう」 「はい!…約束です」 頷いた宗一郎が頭を撫でて、しずくは微笑んだ。 いつか、一緒に──。 その約束はしずくに新しい光をくれた。 この生活が終わってからも宗一郎に会うことができるかもしれない。 海だけじゃなくて、宗一郎と色んな景色を見てみたい。 その為に、しずくは一つ決心した。 「…乗り物、頑張ってみようと思います」 「…しずく」 宗一郎は驚きに少し目を瞠ったあと、優しく目を細めた。 悪化したかもしれない症状は、今もしずくに底知れない恐怖を与え続けている。 それでも、頑張ってみようと思えた。 今まで自分を守っていた檻から、一歩出てみようと──。 「あまり焦るなよ」 「…気をつけます」 心配そうな宗一郎に頷けば、彼は気を取り直したように立ち上がった。 「そろそろ寝ようか」 「はい」 二人で寝る準備をしてベッドに入る。 今朝も一緒に寝たはずなのに、そわそわして落ち着きが無いしずくを宗一郎が抱き寄せた。 「…しずく」 「…っ、はい」 赤くなったしずくは少し思案するような宗一郎の声に顔を上げた。 「…、何でもない」 「…?」 言葉を飲み込んだ宗一郎の瞳に少しの悲哀を見た気がして、しずくは首を傾げた。 「おやすみ、しずく」 「…おやすみなさい」 そっと目尻に口付けて宗一郎はしずくを抱きしめる。 いつもと少し様子の違う彼を気にしながら、しずくは温かい腕の中で目を閉じた。
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