#14

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「う〜…」 「しずく、駄目だぞ」 「…」 宗一郎が帰ってきてから──、つまりしずくにとって初めての絵が描けない生活が始まってから三日目の朝。 ぽかぽかと暖かい窓辺に敷かれたラグの上でしずくは呻きながら立てた膝に顔を伏せた。 ──かきたい… 描けない生活が始まってしばらくは大人しくしていたが、次第にうずうずとして落ち着かなくなってきた。 宗一郎はそんなしずくを見守りながら、こうして窘めてくれている。 疼く右手を恨めしく見ていると、仕事の手を止めた宗一郎が傍へやってきた。 「…」 「…そんな顔するな」 「わ…っ」 泣きそうになりながら見上げたしずくの髪を苦笑してため息をついた宗一郎がくしゃくしゃにした。 「もう…っ」 「悪い、悪い」 拗ねたしずくの隣に座った宗一郎が乱れた髪を整えてくれる。 普段は書斎で仕事をしている宗一郎だが、落ち着かないしずくの為に今はリビングで仕事をしていた。 あの日から宗一郎と毎日一緒に寝ている。 しかしそれは当初の目的というより、一人にするときっと我慢出来ずに絵を描いてしまうだろうしずくを止める意味合いの方が強くなっていた。 「…もう痛くないのに」 「本当か?」 宗一郎に見つめられ、しずくは赤くなって目を逸らした。 ──本当はまだちょっと痛い。 宗一郎には全部お見通しのようで、しずくは居た堪れず再び膝に顔を伏せた。 まだ乱れているしずくの髪を、宗一郎が優しく梳いている。 「どこか出かけようか」 「…宗一郎さん、お仕事は?」 「急ぎの案件は無いから、大丈夫だ」 「そうなんですか…」 髪を一束緩く引かれて、しずくはそのまま宗一郎を見た。
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