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「泣くのはまだ早い」 「…ふふ…っ」 からかうように目尻を撫でられ、しずくは思わず笑ってしまった。 「車ならすぐ止められると思うが、どうだ?」 「そうですね…」 正直電車よりも車の方が苦手だ。でもそれは一人で乗る場合のことで、宗一郎と一緒なら車の方が良いような気がする。 ──頑張って、みよう。 「…お願いできますか…?」 「もちろん」 快く頷いた宗一郎に、しずくはほっと胸をなで下ろした。 「よろしくお願いします」 「あぁ」 それから二人で出掛ける準備をして、家を出た。 しずくは数日ぶりの外に、爽やかな空気を胸いっぱい吸い込んだ。 ──こんな風に誰かと出掛けるなんて、大人になって初めてだ… 改めてこれからやる事を思い出して鼓動が速くなるが、決して悪い気分では無い。 宗一郎はどんな車に乗るのだろうか。 今まで自発的に車に乗ろうと思った事も無かったため、たまに出掛ける宗一郎が握った鍵ぐらいしか見ることは無かった。 宗一郎の車は地下にある駐車場に停めてあるようで、下へと向かう。 「…っ」 「…おいで」 地下に広がるスペースにずらりと並んだ車を見て足が竦んだしずくに、気付いて宗一郎が手を引いた。 駐車場には誰もおらず、しずくは大人しく宗一郎の後を追う。 しばらくして黒い乗用車の傍で立ち止まった宗一郎が車のロックを解除した。 「宗一郎さんの車ですか?」 「あぁ」 今まで出来るだけ見ないようにしていたしずくには、この車の価値は分からなかった。でも艶のある車体に、どれだけ大切にされているのかがわかる。 「…大丈夫そうか?」 「…」 助手席のドアを開けた宗一郎に無言で頷いて、彼を見上げた。 宗一郎は冷や汗を浮かべるしずくの背を撫で、優しく微笑む。 しばらくそのままでいるしずくを宗一郎は気長に待ってくれた。 「…っ」 ──怖い。 でも、宗一郎さんが居る…大丈夫。 そう自分に言い聞かせ、しずくは思い切って助手席に乗り込んだ。
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