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「閉めるぞ」
「…」
頷いたしずくを確認してゆっくりとドアが閉められた。
「…っ、う」
瞬間息苦しさを感じて胸元を握る。
呼吸が浅くなりかけた時、ふと感じた宗一郎の香りにしずくは深く息を吸い込んだ。
──いつもの香りだ…
次第に落ち着いてきたところで、宗一郎が運転席に乗り込んできた。
「…大丈夫か?」
「何とか…」
青白くなっているであろうしずくの頬を、宗一郎が温めるように包む。
次第に頬の赤味が戻ってきて、しずくは何とか微笑んだ。
「大丈夫みたいです」
「…分かった。少しでも体調が悪くなったら言うように」
「はい」
真剣な瞳にしずくはしっかりと頷いた。
宗一郎がエンジンをかけシートベルトを閉める。シートベルトと悪戦苦闘するしずくを手伝ってから、車はゆっくりと走り出した。
「大丈夫か?」
「はい」
心配そうに確認する宗一郎を安心させるようにしっかりと返事をする。
車内には相変わらず彼の部屋と同じ少し甘い香りがしていて、しずくが落ち着くのを手伝ってくれている。
思えばあの日もそうだった。
車窓を流れる景色に、しずくは宗一郎と再会した日のことを思った。
車に乗るのはあの日以来だ。
あの時はこんな風に二人で出掛けるようになるなんて、ましてや一緒に住むなんて思ってもみなかった。
それが今は一緒に仕事をして、眠っている。
そして彼に初めての恋もしてしまった──。
──そういえば、宗一郎さんはいつから俺だと気付いてたんだろう…。
ふと疑問に思ったが、顔を上げて目に入った車の多さにはっとして拳を握った。
考え込んでいるうちに大通りに出たようで、車の量が住宅街とは比べ物にならない。
「…っ、こわい…」
「…しずく?止めようか」
「…ぁ、…大丈夫、です」
ちょうど信号待ちで止まった宗一郎が、しずくの震える手を握った。
──怖い…でも…
「…っ、大丈夫です」
「…分かった、だから力を抜け」
懸命に訴えるしずくに頷いた宗一郎が、安心させるように頷いた。
そのまま信号が青になるまで、宗一郎はしずくの手を握ってくれていた。
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