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「払います…っ」 「言っただろう、デートだ」 「…っ」 振り向いた宗一郎がしずくの分なのであろうチケットを差し出し、悪戯っぽく微笑んだ。 車の中でのことを思い出し、頬が熱くなる。 ──心臓に、悪い… しずくをからかう宗一郎の表情は、普段の落ち着いた彼を年相応に見せた。しずくは見た事の無い表情にどきりとして、少し嬉しくなってしまう。 速くなる鼓動を宥めながらしずくはそっとチケットを受け取った。 「ありがとう、ございます…」 「あぁ、…」 赤いまま宗一郎を見上げてなんとか礼を告げると、彼がいつもの様にしずくの髪を撫でようとして手を止めた。 「…?」 「外に居るのを忘れそうになるな」 「あ…」 苦笑して手を下ろした宗一郎に、不思議に思っていたしずくははっとする。 ほぼ二人きりの生活のせいか、しずくも外だということを忘れそうになっていた。 ──そうか。ここは外だ… 「…行きましょう、宗一郎さん」 「あぁ、行こうか」 急に宗一郎に触れて欲しくなったが、しずくは気を取り直してそのままゲートを通った。 暗い通路を進んでいくと、朧気に覚えていたあの色がしずくを出迎えた。 ──見たかった青だ… そっと水槽に近付き、触れてみる。 ヒヤリとしたガラスの感触に、しずくは微笑んだ。 「…この色が、見たかったんです」 「そうか」 呟くように話しかけると、傍で何も言わずにしずくを見守っていた宗一郎が優しい瞳で頷いた。 宗一郎と一緒にゆっくりと館内を見ていく。 やはり人は疎らで、人混みが苦手なしずくでも落ち着いて回ることができた。
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