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「っ、すみません、大丈夫ですか…っ」
「あー、大丈夫…」
そこまで強くぶつかった訳では無いが、前をよく見てなかった自分が悪いので慌てて謝る。
恐る恐る見上げれば自分と同い年くらいの男性で、しずくをじろりと見た彼はあまり良い雰囲気では無かった。
彼はしずくをじっと見つめていて、居心地の悪い視線にしずくは少し後ずさる。
「…お兄さん一人?」
「っ、ぃえ…っ」
「へぇ」
彼が浮かべた嫌な笑みにしずくは逃げ出しそうになるが、あまりに失礼だと思い直し何とか踏み留まった。
「あの、大丈夫そうでしたら、これで…」
「うーんやっぱ大丈夫じゃないかも、一緒に来てくれない?」
にっこり微笑んだ彼に嫌な予感がしてしずくは一歩足を引いた。
「一緒に来ている人が居るので、これで…っ」
「待てって」
宗一郎の所に戻ろうと踵を返した瞬間、強い力で右手首を掴まれる。
触れる他人の体温に鳥肌が立ち、包帯が巻かれた手首が鈍く痛んだ。
「ぃ…っ」
「あー怪我してるの?ごめんね」
全く申し訳なさそうに謝った彼は、痛がるしずくに構わずそのまま掴んだ手首を引いた。
「離してください…」
「良いからちょっと話そ?」
「…っ」
痛む腕を払う事も出来ず、しずくはそのまま引っ張られて行く。
助けを求めて周りを見渡すが丁度展示と展示の間になっている通路には他に人が居なかった。
──どうしよう…っ、気持ち悪い…っ
掴まれた手首から次第に強くなる痛みとどうしようも無い不快感が込み上げてきて、しずくの目に涙が浮かんだ。
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