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「…っ、宗一郎さ…」 「何をしている」 堪えきれず声を上げた時、ふいに右手首を圧迫していた指が無くなってしずくは顔を上げた。 ──宗一郎さん…? どうやら宗一郎が助けてくれたようで、しずくを連れて行こうとした男の腕を掴み上げている。 背を向けた宗一郎の表情は見えないがかなり力を込めて腕を握っているようで、彼の表情が苦悶に染まった。 「ってぇな、離せよ!」 「静かにしろ」 耳障りな声に、ぎゅっと目を閉じた。次第に鼓動が速くなって両手で耳を塞ぐ。 男はまだ何か怒鳴っていたが、しばらくして居なくなったようだった。 ふいに温かい掌が耳を塞いだ両手を包むように触れて、しずくはそっと目を開けた。 「ぁ…」 「…大丈夫か」 珍しく怒りの色を残した宗一郎の瞳に、しずくは言葉が出なくてゆっくり頷く。 ──助けに来てくれた… しずくが頷いたのを確認して、宗一郎がほっと息をついた。 見上げるしずくから目を逸らし、触れていた手を離す。 ──怒ってる…? 今までに無かった少し冷たい素っ気なさに、しずくは不安になってしまう。 離れる彼に思わず縋り付きそうになるが、見えた人影に慌てて伸びそうになった手を握った。 「…残念だが、今日はもう出ようか」 「…っ」 宗一郎に言われ、しずくは俯いて頷いた。 ──もう、最低だ… 他の人ならもっと上手く対処出来たのかもしれない。しずくの弱さで全て台無しにしてしまった──。 先程までの恐怖と宗一郎を怒らせてしまったかもしれない不安で考えが纏まらない。 しずくは震える手を握りしめ、ゆっくり歩き出した宗一郎の後を追った。
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