#14

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二人で立ち止まることなく館内を進んでいく。 宗一郎はしずくに合わせてすぐ傍をゆっくり歩いてくれていたが、今はとても遠くを歩いているように感じる。 ──宗一郎さんはきっと呆れてるだろうな… しずくは宗一郎に迷惑しかかけていない。 飲み物でさえも、満足に買ってこれなかった。 宗一郎の隣を歩くのがこんなに苦しいのは初めてだった。それがとても──哀しい。 しばらく歩いていくつ目かの通路を抜けると、大きく開けたスペースに出た。 瞬間目に入った色に、しずくは目を瞠る。 「…っ」 目の前に一面の青が拡がっていた。 壁一面の水槽の中を、様々な魚たちが泳いでいる。しずくは引き込まれるように近付き、水槽に触れた。 「しずく…?」 水槽を見つめるしずくに、宗一郎が足を止めて振り返る。 「…いいな…」 空を飛んでいるような魚たちをしずくは羨ましく思った。 ──上手く泳げない自分はきっといつまでもこのままなのだろう。 掌から伝わる冷たさに、どうしようも無く感情が揺さぶられる。 「…ぁ…」 不意に涙が零れて、しずくは自分の頬に触れる。 「ふ…っ」 はらはらと落ちる雫をどうすることも出来ずにいると強く左手を引かれた。 何も言わない宗一郎に手を引かれ、歩き出した彼について行く。いつまでも動かないしずくに痺れを切らしたのかもしれない。 いつものゆったりとした歩みとは違って性急なそれに、しずくは宗一郎の背中を見つめながら躓かないように歩いた。
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