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唇から感じる熱に驚いて目を見開く。
え──…?
近すぎてぼやける伏せられた瞼に、口付けられているのだと実感する。
初めてのキスはほんの一瞬だったけれど、しずくには永遠のように感じられた。
宗一郎がそっと唇を離し、頬に触れている指で涙の跡をなぞる。びくりとして彼を見上げると、揺れた瞳がしずくを見ていた。
「…っ」
「…しずく」
先程触れた熱を思い出して、自分の唇にそっと触れてみる。
──今の、キス…?
どうして…
頭が上手く働かない。
驚きに涙はすっかり止まったようで、さらりとした感触が宗一郎の指から伝わってくる。
それが少しくすぐったくて、しずくは少し身じろいだ。
「私は…また君を守れなかった」
「ぇ…?」
宗一郎は哀しい響きを残してしずくを離した。
言われた言葉に覚えが無くて、しずくは首を傾げる。
──また…?
しずくを見つめる宗一郎の瞳は哀しみに染まっている。
不意に自嘲的な笑みを浮かべた彼に、しずくは堪らず抱きついた。驚いたように身を固くする宗一郎の腰に構わず両腕を回す。
華奢なしずくではしがみつく様な形になってしまったが、少しでも温もりが伝われば良い。
──いつも彼がしてくれているように。
「…っ」
「…守ってくれました」
「…」
「宗一郎さんはいつも、俺を守ってくれています…っ」
──傍に居ても、居なくても。
宗一郎はいつもしずくを守ってくれている。
しずくは精一杯腕に力を込める。
──だからまた俺を見て笑ってほしい。
「…私から離れないでくれ…」
呟いた彼がしずくを強く抱き締め返した。
あまりに強い抱擁に息が詰まる。
目を閉じて苦しさが宗一郎に伝わらないようにゆっくりと息を吐く。
しずくはいつまでもその心地良い苦しさに、溺れていたいと思った──。
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